第14話 論より証拠【下】
「朝までずっと……」
口の中で繰り返し、ごくりと生唾を飲み込む。
真っ暗闇の中、目の前には俺に跨る帆波が。いつもほどではないにしろ、ゆるっとしたTシャツにハーフパンツ姿。なんとも無防備な姿で、ハンペンマンをそのふっくらとした胸元に抱き、不安げな表情を浮かべて上目遣いで俺を見つめている。そんな状況で、だ。今夜、朝までずっと抱いててほしいの――て、これは、まさか夢か!? もはや、そうとしか思えない状況なんだが!?
なんだ? なんなんだ、この超展開は?
そもそも、なぜ、帆波が俺の部屋に? しかも、ハンペンマンを持って……?
ダメだ。脈絡が無さすぎる――!
「ちょっと……待て!」どうしようもなく熱くなるものを腹の底に感じつつ、ばっと右手を挙げ、己に喝でも入れるような思いで声を張り上げる。「その……これが夢じゃないなら、いろいろダメだろ!」
「夢……?」
「あ、いや……とにかく、急に何を言い出してんだ!? 俺らも子供じゃないんだぞ? 分かってんのか!?」
「そう……よね。やっぱり厭……だよね」
ハンペンマンを胸に抱き、思い詰めた表情でしゅんとする帆波。『はあ!? ダメ、てなんでよ!?』とかいつもみたいに食いかかってくればいいものを。こんなときに限って、珍しくしおらしくなりやがって……。その姿に思いっきり胸を打たれて、見事に理性が揺すぶられるのを感じた。
厭じゃねぇよ――と心の底から叫びそうになる。
厭なわけがない。傍にいればいつだって抱きしめたいと思うし、今だって……こんな状況で――暗がりに二人きりでベッドの上にいたら――良からぬ情欲が泉のように湧いてくる。だからこそ……ダメなんだ、ての! 抱いてて欲しい、と言われても……それだけで済む保証も自信も無い。昔とは違うんだ。一緒のベッドに入ってハンペンマンを挟んで『添い寝』――なんて今の俺には拷問というか苦行というか。耐えられる気がしない。
「厭……とかじゃ無くて」頭を掻きつつ、モゴモゴと我ながら歯切れ悪く言う。「俺も男だし……だな。だから、その……まずい、だろ……」
「うん。抵抗ある……のは分かるんだけど。論より証拠、ていうか……身をもって知ってもらった方が早いかな、て思って」
「ああ……身をもって――」
言いかけ、ハッとする。
――いや、何をだ!? なんの証拠!? 何を身をもって知れ、と!? 朝まで抱き締めて……何をこの身で知れ、と!?
「お前、ほんと何を言って……!?」
かあっと身体中が燃え上がるように熱くなるのを感じて、思わず、大声を上げた、そのときだった。
「幸祈? あんた、何を騒いでるの?」
コンコンとドアを叩く音と共に、母親の訝しそうな声が聞こえた。
ぎくりとして、「いや、なんでもない!」と慌てて答えるが、
「ちょっと開けるわよ」
なんでだよ!?
その瞬間、ぎょっとする帆波と目が合って……。
下手したら、帆波ちゃん、出禁になるぞ、出禁に――そう軽い調子で兄貴に言われた言葉が、不吉な予言のように脳裏に響いた。
*おかげさまで、フォロワー数は3000を越えました! 本当に本当にありがとうございます。これも皆様の応援あってです。
そんな節目に、本作の表紙絵をいただきました。とっても素敵なイラストで、あのキャラクターの姿も初公開となっております。近況ノートの方で公開しておりますので、是非是非ご覧になってください。
https://kakuyomu.jp/users/Tachikawa/news/16817139558341423772
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます