第27話 いたぶりの復活
つぎの日、藍子は1か月ぶりに登校した。
勇気を出して歩いて行ったが、学校が近づくとだんだん足が重くなり、田んぼのなかの1本道が神社の森に突き当たるころには、きびすを返して帰りたくなった。
――だめ、こんなことで負けていたら、おばあちゃんや慎司に申し訳ない。
そんな思いだけが藍子を支えている。
昇降口で上履きに履き替えると、うつむきそうになる顎を無理やり持ち上げる。
うしろのドアから教室に入ると、それまで騒いでいた男子も、麗羅の席のまわりにかたまっていた女子もいっせいに話をやめて、
藍子は黙って自分の席に歩いて行く。
なんだか手も足も滑らかに動かない。
恐れていたとおり、譲治がさっそくちょっかいを出して来る。
「おっす、どてかぼちゃ。性懲りもなく、またまた畑から転がって来たんか。この組からいなくなってくれて清々したと思っていたのに、オーマイゴッド、またしても来ちゃったのかよう。あ、ほれ、わかっちゃいるけどやめられねえってか?」
裕也が身体をくねくねさせながら、気味のわるい裏声を出す。
「そうよそうよ、そのぶっさいくな顔、二度と見なくて済むと思っていたのにさ、なんでまた来ちゃったのよう。もう、いや! 井上さんのいけずぅ」
あげくに、調子に乗って『こがねむし』の替え歌までうたい出す。
――♪ どてかぼちゃが けがをした たいしたことなかったけど やすんでた そのあいだに 席が なくなっちまったとさ……おおっと、字余りってか?
裕也の計算どおり、最後のオチで教室中が大喜びする。
藍子はランドセルをおろし、机の横のフックに掛けた。
裕也の悪ふざけはしつこい。
「あらまあ、だあれ? この席のお花を片付けたのは」
譲治が同調して囃し立てる。
「昨日まで牛乳瓶にさしてあった花、どこへやった?」
麗羅がわざとらしい口調でまぜっかえした。
「知らないわ、あたしたち、なあんにも知らないわよ」
「ま、いっかぁ。けど、二度と出て来ないと思っていたやつが、なに勘違いしてかとつぜん来られると困るんだよなあ。こっちにも都合ってえもんがあるんだから」
子どもらしくない
――ちっとも変っていない。
以前よりひどくなった。
真っ直ぐ立っていた藍子の首が、がくんと折れる。
おばあちゃんや慎司の出生の秘密を知ってから、強くなろう、強くなって笑顔の輝く大人になろうと思っていた藍子の決意は、早くも打ち砕かれようとしていた。
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