第25話 初めてのポニーテール





 その夜、藍子は机の上に、おばあちゃんの手鏡と古写真を並べた。

 古ぼけたガラス面に、変わり映えのしない自分の顔が映っている。


 すべてが大雑把、相変わらず個性的に過ぎる顔。

 なんでこんななの、ほんと、いやになっちゃう。


 いつもならそこで終わるが、その晩はちがった。

 昼間の老婦人の話が残っていたせいだろうか、じいっと見詰めていると、案外、憎めないというか、どこか剽軽ひょうきんでお茶目な顔立ちのようにも思えて来た。 

  

 手鏡のなかで藍子は、譲治や裕也たちからタラコとからかわれている、ぼってりしたくちびるの両端をにいっと持ち上げ、思いきり派手な笑顔をつくってみた。


 くすっ。藍子が笑うと手鏡も笑う。

 ぷんっ。藍子が怒ると手鏡も怒る。

 いやっ。拗ねると、手鏡も拗ねる。


 ふと思いつき、髪を輪ゴムで束ねてみる。

 生まれて初めて結うポニーテールだった。


 ――あら? 


 思いがけないほど新鮮な自分がそこに映っていた。

 なんだか少しかあさんに似ているような気もする。


 角張った顎を見られたくない一心でいつもおろしていた髪を上げてみただけで、まったくちがう自分が出現したことは、藍子にとって声を呑むような驚きだった。

 

 ――あら、あたし、案外いけてるかも……。

 

 古写真のなかの自分によく似た少女に語りかけると、

 

 ――そうそう、自分に自信を持つのよ、堂々とね。

 

 写真の少女もレスポンスしてくれたような気がした。

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