第23話 入院生活に救われる



 

 気がつくと、病院のベッドにいた。


「大事な顔に傷がつかなかったことだけは、不幸中の幸いでしたけどねえ……」

 かあさんがひそひそだれかに話している。

 とうさんと慎司の心配そうな顔も見える。


 藍子は笑いかけようとして「いたっ!」顔をしかめた。

 意識がもどったと喜んでいる家族ひとりひとりを包帯の隙間からたしかめた藍子はかつてないほど温かな気持ちになり、ふたたび深い眠りに引きこまれて行った。

 

 高層ビルから重い看板が降って来たのだと聞かされたのは翌日のことだった。


「打ちどころがわるかったら、命も危なかったんですって。本当によかったわ」

 かあさんは飽きずに繰り返したが、藍子は大してうれしくなかった。

 けがをする前と、顔が変わったわけではないのだから、意味がない。

 

 だが、退屈なはずの入院生活は、藍子にとってはむしろ救いになった。


 事故のあとすぐに駆けつけてくれたそうで、そのあともたびたび様子を見に来てくれる朝子先生を除くと、男女各1名のクラス委員が、いかにも役目柄仕方なくという感じで現われたきり、5年3組のクラスメートからの見舞いは届かなかった。


 けれども、藍子はいっそ清々した気持ちだった。むしろ、毎朝、あの苦痛な教室へ行かなくて済むのがうれしくて、このままいつまでも病院に住んでいたかった。

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