第21話 あだ名は「おもらし」




 

 かけっこの日以来、藍子にはさっそく「おもらし」というあだ名が付けられた。

 裕也が付けた「アンコウ」よりインパクトが強いことが譲治の気に入ったのだ。


「やあい、おもらし、くっせえぞう。5年のくせに、どげんかせんといかんばい」


 古くさい昭和の流行り言葉で囃し立てる、譲治とその手下たち。

 調子にのって藍子をこづいたり蹴ったりする者まであらわれた。

 そんな男子たちを麗羅たち女子グループはベランダで面白そうに見物している。


 クラス内で孤立すればするほど、藍子はますます堅い殻に閉じこもっていった。

 しまいには、たったひとりの友だちの春花にすら心を開かなくなってしまった。


 班替えのとき、だれからも声をかけてもらえなかったり、給食のとき、藍子のお皿だけ配ってもらえなかったり……爪はじきはどんどんエスカレートして行った。


 藍子はもはや、クラスに溶けこみたいという気持ちをほとんど失いかけていた。

 あの古写真に写っていた少女の堅い表情が藍子を捨て鉢な気持ちにさせていた。

 

 ――DNAは変えられない。わたしは一生このままなんだ。

 

 春花がときどき遠慮がちな視線を送ってくれることは知っていたが、

 

 ――こんな顔のわたしの苦しみが、あんたにわかるわけがないよ。


 そういうあんただって、本当はわたしのことを馬鹿にしているんでしょう? 

 正直、あんたと一緒にいると、わたしはいつだって引き立て役なんだし、もうそんなのたくさん。わたしにかまわないでよ……かえって憎しみを募らせて行った。

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