第20話 一葉の古写真
その夜、藍子はとうさんの書斎で、読む本を探していた。
この部屋にある本は、いつでも好きなだけ読んでいいと言われている。
夏目漱石、芥川龍之介、宮沢賢治……見慣れた作家の名前を順に追って行く。
どれにしようかなと迷いながら、背を見せて並ぶ書棚から1冊の本を抜いた。
そのとき、パラリと落ちたものがある。
見るからに古ぼけた白黒の写真だった。
――だれ、これ?
裏を返して見たが、手がかりになる文字は見当たらない。
もう一度表を見て、そこに写っている人物をたしかめる。
社会の教科書に出て来るような格好をした少女がふたり、坊主の少年がひとり、いずれも堅い表情をして並んでいる。藍子の目は中央の少女に吸い寄せられた。
――あら。これ、わたしじゃないの?
太い眉、大きな口鼻と厚いくちびる。
どこからどう見ても藍子そのものだ。
――でも、こんな写真、撮った覚えないけど……。
藍子はリビングのかあさんに見せに行った。
「ねえ、かあさん。これ、わたしだよね?」
編み棒の手を止めたかあさんは写真を見ていたが、
「ううん、ちがうよ」妙に素っ気ない感じで答えた。
「なあんだ、そうなの。あんまりそっくりだから、自分かと思っちゃったよ」
もう一度写真を見直したかあさんは、若いころのおばあちゃんだと言った。
「なあんだ、そうなの。じゃあ一緒に写ってるのはだれ?」
「お友だち……だと思うよ」
微妙な間合いで答えたかあさんは、急に忙しそうに編み棒を動かし始めた。
それ以上この話をしたくなさそうに見えたので、藍子は自分の部屋にもどると、机の引き出しから手鏡を取り出し、鏡に映った自分の顔と写真を見比べてみた。
……見れば見るほど、よく似ている。
こういうのを瓜ふたつというのだろう。
――ということは……。
わたしはとうさんやかあさんや弟とは血がつながっていないかもしれないけど、おばあちゃんの血を引いていることはたしかなんだろうね。とうさんもかあさんも弟もきれいな顔なのに、わたしだけどうして? と思っていたけど、こんなところにルーツがあったんだ……。藍子は自然に止めていた息を、ふうっと吐き出した。
――もしかしたら、おばあちゃんも顔のことでいじめられたことがあるのかな。
「おばあちゃん……。会いたいよう」
藍子は声に出して呼びかけてみた。
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