第4話「すいましぇん」


 ジュレさんがテーブルクロスとナイフとフォークをセッティングしてくれました。

 杏蜜さんはナイフとフォークを器用に使いフィレ肉を切ります。切り分けた断面からはほんのりと赤みが残っていて、フォークに刺した牛フィレ肉をちょんと粒マスタードのソースにつけてお口に運びます。

 優しい肉厚を噛み締め、コクのある甘めのソースとバターの芳醇な香りがあとから鼻を抜けていきます。


「うぅ………んまいっ!」


 杏蜜さんはこの世で一番幸せそうな顔をしていました。

 ハッとしたエプロン姿の女の子は嬉しそうに頬を染めました。


「これすっごく美味しいですっ!」


 もぐもぐ、ぱくぱくと食べる杏蜜さんを三人は幸せそうな顔で見守りました。


「なんて幸せそうに食べる子や」と顎肘をつきながらジュレさん。

「お化けじゃなかったのか……犬か」とずり落ちた眼鏡をかけなおすマリネさん。


 あっという間にお皿が空になってしまいました。

 杏蜜さんはワイングラスに注がれたミネラルウォーターをゴクリとを飲みます。


「あ」とナイフとフォークをお皿の右端に並べた杏蜜さんは両手を合わせ、目を瞑り、頭を下げて。


「ごちそうさまでした」と言いました。

「おぉ」パチパチパチと何故か拍手が起きます。


 およおよと杏蜜さんは面を上げます。


「お粗末さまでした」


 華のような笑顔でエプロン姿の女の子は言います。


「いえいえ、こちらこそ大変美味な……」と杏蜜さんが言いかけて固まります。


 三人は杏蜜さんを不思議そうな面持ちで見ています。

 杏蜜さんは三人を見ます。


「え」と杏蜜さん。

『え』と三人。


 うるうると杏蜜さんの目尻には涙が浮かびます。


 ・・・・・・・・・・


「すいましぇん……ここは……どこですか?」

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