第27話「3人の共犯者」
”この手記が発表されたら、南部隼人が転生者だからあれだけ名声を得られたと言う愚か者が出るでしょう。
でも、そんなのに限ってあいつと対戦すれば3秒で落とされる。スペシャルでマーベラスな私が保証してあげるわ。あいつに勝てるのはこの私だけよ”
南部隼人の手記に同封されたリーム・ガトロンの走り書きより
Starring:リーム・ガトロン
「あんたのことだから、”あいつ”の前で口を滑らせて全部ゲロったんでしょ?」
南部隼人は苦笑を隠さずに「仰る通り」とまたゲロった。
生意気な下士官。
この天才リーム・ガトロンを小娘呼ばわりしておいて、目にもの見せてやる前に勝手に退場したクソムカつく女。
だけど、あいつが信じたのなら。
「まあいいわ。私のライバルが妄言に騙されてたなんてのは興ざめもいいとこだし、とりあえずは信用してあげる」
「……ありがとう」
「で、大尉と2号さんは?」
「2号さんじゃありません!」
早瀬沙織はと律義に言い返す。
その後特に苦悩した様子もなく、さらりと言いかけた。
「私は、
「沙織、それはいけない。『妄信』と『全否定』は絶対やっちゃいけないと教えたろ?」
あーそれ、
「それでも、私は信じます。相手に全てを委ねるのは騙されても笑って済ませる覚悟があるときだけって言いましたよね。仮に師匠がガミノのスパイで私たちを騙そうとしてるとしても多分『あれだけ信じたんだからしょうがないか』って思っちゃいます。それに、師匠の人柄は信じるに値します」
健気に言い切った2号さ……早瀬沙織に、隼人は嬉しそうに返した。
「それは立派に”自分の意見”だな。悪かった。そしてありがとう」
沙織の背後にパタパタ振られる尻尾が見えたような気がした。
この女たらしがと氷点下の視線をプレゼントしてやった。
「俺の方はとりあえず保留だな。まずは信じるに値する何かを見せて貰わんと」
腕を組んで難しい顔をする菅野
「簡単な事ですよ」
また悪だくみを考えてる顔をしている。
毎度毎度ご苦労なことだ。そして、何か、詩のようなものを
「『平和なる 陽の光かがやく
「待てっ! 待たんかっ!」
手をぶんぶん振る菅野大尉は、彼らしくない慌てぶりだった。隼人は子供のような、しかし邪悪な笑いを浮かべた。
「大尉の伝記は穴が空くほど読みましたから。もう何篇か憶えてますよ?」
「ま、まさか俺の中学時代の詩は……」
南部隼人は満面の笑みで、なにやら判決を下したようだ。
「ええ、日記の多くは大尉の遺言で燃やされましたが、残りは広く公開されています」
「何たることだ!」
菅野大尉は頭を抱えている。いつもの姿とギャップが凄い。
「あんな昔の未熟な詩を公開だと!?」
「何言ってるんですか。大尉の文章はプロ作家顔負けの美文ですよ。『ここ四日 君と会はざりけり さびしさに……』」
「止めろっ! 分かった! とりあえずは信じよう!」
そんなに嫌なのか?
リームは詩など書かないので良くわからないが、英雄の狼狽え振りはちょっと面白い。
「ありがとうございます!」
隼人は満面の笑みでと一礼した。こいつは悪魔だ。
「あと、俺が大尉の文章を好きなのは、嘘でも偽りでもありませんよ。だから、
「……分かったよ」
呆れ半分苦々しさ半分で答える菅野だが、声色は穏やかだ。
英雄と言う話だからどんな豪傑かと思えば、割と親しみやすいではないかと密かに思う。
「で、俺たちに何をさせたい?」
問いかける大尉に本題を切り出した。
「まずですが、俺は第二次大戦、つまり西暦1944年現在の各国航空機のデータを頭に入れています」
「えっ、じゃあ連盟軍の情報はこちらに筒抜けって事ですか?」
何という事だ。それでは完全に手札を覗き見ながら戦うポーカーではないか。
「いや、そうはいかない。鹵獲機を調べたら、前世より改良されていたりスペックが上がっている機体があった。恐らく向こうにも転生者がいる」
つまり、向こうもこちらの手札を覗き見ているという事でもある。なんとも嫌なゲームだ。
隼人は息をのむ沙織からリームに視線を移し、問うた。
「”
「……名前だけは。それ以上調べても尻尾は掴めなかったけど」
「流石だな」
リームはブリディス都市同盟国防相の娘だ。
本人は特別扱いを好まないが、それでも使えるものは使ってやろうと言う強かさもある。
「賢竜議会は、条約国の中心人物が運営している機関です。目的は転生者から得た情報を活用する為。その転生者って言うのが俺です。大尉は今次大戦が始まってから、適切な戦術が下りて来るようになったのを疑問に思いませんでしたか?」
「……確かにな」
レーダーと無線による航空機の連携。
「全部俺が前世から
「……師匠の豊富な知識って、そこから来たんですね」
「失望したか?」
尋ねる隼人は、泰然とした風で実は相当に恐る恐るなのが分かった。こういう時虚勢を張るの悪癖は、怪我を誤魔化すうさぎだ。
本来なら嗤ってやるのに。そう思ったはずが、何故か自分も緊張している事に気付く。
どうにも居心地の悪さを感じた。
「いいえ、知識は借り物でも、それを巧みに使っているのは間違えなく師匠です」
「……そうか」
隼人は咳払いして切り出す。
「本題ですが、ガミノ海軍は〔ヘルキャット〕と〔コルセア〕を採用しています。両方とも
「つまり、貴様なら敵との戦い方を知っていると言うのか?」
隼人は頷くと、知識を開陳してゆく。
「例えば〔ゼロ戦〕だと装弾数が少ないために嫌われている20mm砲ですが、〔ヘルキャット〕パイロットは、強力な威力でかなりのプレッシャーを受けたと証言しています。また、〔コルセア〕は低速時に失速しやすいために格闘戦を苦手としますが、旋回性能自体は悪くない。失速覚悟で捨て身の旋回戦を挑まれたら、
「ちょっと待ちなさい!」
次々と出てくる
「とにかく、覚えるからひとつずつ順番に言え。あと、少し落ち着け」
「失礼しました。実は、さっき言った事は全部紙にまとめてありますので、覚えたら燃やしてください」
全員ががくっとずっこけた。
どうやら、語りたいから語っただけらしい。
「あー、もういいわ。じゃあこれは全部大尉が密かに考察していた事で、この機会に開陳した。無理はあるけど押し切る。それでいいかしら?」
我が意得たりと頷く隼人に、目の前でため息を吐いてやりたくなった。
「でも、それは師匠が……」
いつものように不満顔の沙織に、隼人はそっと顔を振った。
「元々は前世のパイロットたちが血を吐きながら得た教訓だ。俺は剽窃しただけ。それに、そうすればグレッグ中尉も納得するだろう?」
この男は、いつもそうだなと、面白くなさそうに視線を逸らす。
場が収まりかけた時、不意に扉が開かれた。
「失礼します。お話の途中ですが」
現れたメイドは一切の足音を立てず、お茶を載せたお盆をことりとテーブルに乗せた。
※菅野が過去の作品に悶えたのは、創作者の向上心的なもので、筆者が彼の作品を拙いと思っている訳ではありません。むしろ、中学生ではるか上を行く彼への嫉妬で炎上案件です。念のため。
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