第56話 下水道から王宮へ
ジョーの話をケインが補足する形で彼らは
それによると街には廃墟や下水をねぐらにしている孤児が結構な数いるそうだ。
原因は二年前に起きた戦争。
働き手を徴兵し隣国に攻め込んだ戦いは歴史的な大敗を喫し、この国は相手国に取り込まれた。
戦争を主導していた者達は処刑され、現在はその敵国の将軍が統治者として治めているらしい。
それによって国内は安定してきてはいるが、戦災孤児の救済にはまだ手が回っていないようだ。
“なるほど、ジョー達もアーニャも戦災孤児か……孤児院とかは……”
「ハッ、あんなトコ、こっちから願い下げだぜ」
「孤児院も子供で溢れてて、食べ物の奪い合いをしてるような状態だよ」
“うーん、街は結構賑わっていたけどなぁ……”
「ありゃベベルの兵士が金をばら撒いているからだ」
“ベベルっていうのが敵だったのかい?”
ジョーが皮肉げな笑みを浮かべ頷いた。
「ああ、とち狂った王と貴族がベベルに喧嘩を売ったのが原因さ……まぁそいつらは全員首を刎ねられたみてぇだけどな」
「僕等はその兵士のお使いとかしてお金をもらってるんだ」
「敵のお情けで生きてるなんてよぉ……笑えないぜ」
ベベルは兵士に金を使わせて民間に回しているようだ。
“ベベルは他に何をしてるの?”
「何って、崩れた橋や道を直したり川を整備したり水道を修理したり……軍隊っていうよりあれじゃあ大工だぜ」
「街の人も雇われて働いてる。他にもお役所とかも人を募集してたりするよ……僕も大人だったら働けるんだけど……」
インフラ整備をしているのか……。
シミュレーションゲームで言う所の領地開発だな。
国力を高める為には必須だし、民間にお金が回れば経済が活性化するだろう。
結果的に税収も上がる筈だ。
……なんだか凄くまともだ。
“ねぇ、その将軍は何処にいるの?”
「ああ? 将軍のトレアはこの街の王宮にいるよぉ。たまに街に下りて来て通りを部下を引き連れてねり歩くんだ……こんな棒っきれじゃ無くて鉄砲の一つもありぁ俺がブチ殺してやるのによぉ」
「駄目だよう……そんな事したら殺されちゃうよぉ」
「チッ」
アーニャが目に涙を溜めたのを見て、ジョーは決まりが悪そうに顔をそむけた。
“うん……取り敢えず、そのトレアに会ってみようか。話を聞く限りだと合理的だし窮状を訴えれば、なんとかしてくれるかもしれない”
「会うってどうやって? 相手は王宮にいるんだよ?」
“僕は今、猫だよ。忍び込む方法は幾らでもある筈さ”
「ココ、危ないよう。ねぇ止めようよ」
“アーニャ、心配しなくても大丈夫さ。見つかっても精々追い出されるだけだよ”
心配そうなアーニャに軽く言うと悠は微笑みを見せた。
その後、悠はジョーに案内され王城へ向かっていた。
日は落ちたがまだ宵の口だ。街はまだ人通りは絶えておらず賑やかだった。
ジョーの話を聞いた後だと、確かに軍服姿の人間が多い様に感じた。
アーニャはケインと一緒に下水道に残ってもらった。
子供達は悠に怯えていたし、ジョーに金を渡しアーニャを客人扱いにしてもらったので酷い事はされないだろう。
「しかし、ホントお前は何なんだよ?」
“見ての通り猫だよ。今はね”
「普通の猫は傷を治したり出来ねぇし、そもそも喋らねぇよ」
“まぁ、色々あるのさ……おっ、あれが王宮かい? ……なんだか武骨だねぇ”
「戦争前は金ピカだったんだよ。トレアが来てから装飾やお宝は全部、
悠の感想どおり、王宮は華美な所は一切無く、周りを取り囲む城壁の上には大砲らしき物が並べられていた。
見ただけで現在の主が質実剛健な性格だと分かる。
“そのお金が国のインフラ整備に使われてる?”
「あ? 何だよインフラって?」
“えっと、道とか水道とか公共事業かな”
「だったらそう言えよ! ……多分、そうじゃねぇの、国王は大分貯め込んでたみてぇだし……チッ、敗戦のどさくさに紛れて盗んどくんだったぜ」
“君、発言が一々悪党だなぁ”
「へっ、どうせまともな仕事にぁ付けねぇんだ。だったら悪で天辺目指して何が悪い」
ジョーは志は高いが考えている事はテロリストやコソ泥みたいだな。
どうせなら反乱軍を組織して国を奪い返すとか目指せば……駄目だ。思考が物騒な方に行ってしまった。
今まで暴力で解決する事が多かったからだろう。
街は孤児の問題はあるが平和だし、まずは話し合いで解決の糸口を探らないと。
王宮の門は警備兵はいたが閉ざされてはいなかった。
まぁ、あれだけ大砲が睨みを利かせていれば暴動を起こす気にもならないだろうな。
“案内してくれてありがとう。あとは一人で大丈夫だからジョーは戻っていいよ”
「ホントにやんのかよ」
“うん、やらないと先に進めないしね”
「……先に進めないか……ココだったか、お前、猫の癖に肝が据わってんな」
“だから猫なのは今だけだよ……じゃあ気を付けて帰るんだよ”
「ガキ扱いすんな!」
ジョーは左手の人差し指と中指を地面に向けると顔を顰め立ち去った。
意味は分からないが恐らく相手に怒りを伝える仕草なのだろう。
悠にとってはアメリカ人が中指を立てられて激怒するよりも全然ピンと来なかったが……。
ジョーを見送り、意識を切り替えて悠は周囲を見渡した。
通りには日も落ちたというのに、馬車の他にも馬が結構頻繁に王宮と街を行き来していた。
恐らくだが馬に乗っているのは通信兵では無いだろうか。
この国の大きさは知らないが通信技術が未熟だと情報は人が運ぶしか無いのだろう。
“トレアって将軍は真面目な人そうだね”
城壁の様子と忙しく動いている馬車や通信兵たちを見て、悠は何となくそう思った。
イメージではあるが、上がぐうたらだと下もそれに習う気がする。
悠は通りを走って来た馬車の一つに狙いを付け、タイミングを計り箱型の屋根によじ登った。
幸い頭から背中にかけて、尻尾の先まで黒い毛で覆われている。
口元から腹、足先は白だが闇にそれなりにまぎれる筈だ。
王宮は恐らくかつては庭園だった場所に、新たに建物が建築され宮殿というよりは官庁舎に近い形に作り変えられていた。
庭の奥には白壁の宮殿がそびえている。
その宮殿も幾つか窓から明かりが漏れ、人が動いている様子が伺えた。
“通信兵だけじゃ無く、デスクワーク組もまだ働いているのか……過度な残業はいい仕事の敵だと思うんだけど”
アニメ映画で聞きかじった事を呟きながら悠は馬車の屋根から飛び降り、取り敢えず王宮を目指す事にした。
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