第55話 天使か悪魔
ジョーは自分を攻撃してきた
「ココ!!」
アーニャが悠の身を案じ悲鳴を上げる。
下水道に彼女の悲鳴が響く中、振り下ろされた角材を悠は鮮やかに躱しジョーの膝を踏み台にして彼の顔に回し蹴りを叩き込んだ。
勿論、体の大きさの違いから打撃としては大した効果は得られない。
しかし今の悠には爪がある。
鋭く研ぎ澄まされた足の爪はジョーの左頬に深い傷を刻む。
“まだやるかい?”
「猫の動きじゃねぇ……まさか……悪魔!?」
取巻きの一人が怯えた様に後退る。
“またそれか……この世界には猫の悪魔の話でも伝わっているのかねぇ……”
「ココは悪魔じゃない! ココは……ココは私の騎士様だよう!!」
アーニャが口走った言葉でジョーは顔色を変えた。
「騎士……もしかして悪魔じゃなくて守護天使……クッ、神様なんぞクソくらえだ!!」
ジョーはヤケクソ気味に角材を振り上げ、再度悠に殴りかかって来た。
“甘い!”
悠は左前足で角材を受け流し床を打たせると、ジョーの右手を踏み台にジャンプしすれ違い様に右頬を切り裂いた。
「うわっ!?」
ジョーは攻撃に押され下水道に尻もちをついた。
その背後に悠は音も無く着地する。
「ヒェェ……受け流すなんてやっぱり悪魔だぁ!」
流石に猫だけあってパワーは無いものの反応速度と身軽さは人とは段違いだ。
悠がそんな事を考えている間に、怯えた取巻き達は蜘蛛の子を散らす様に下水道の暗闇に消えていった。
“君には功夫が足りないね”
一声鳴くとジョーは悠を振り返り怯えと怒りのこもった目で彼を睨んだ。
「なんだよ……天使か悪魔か知らねぇけど、俺達をまだ虐めんのかよ……」
「ジョー……」
ケインはジョーに駆け寄りポケットから取り出した布で彼の頬を拭ってやった。
悠は彼がケインに暴力を振るおうとしたので、対処しただけだったのだが……。
なんだか気の毒になってきた。
“悪かったよ……でも、もとはといえば君がケインを棒で小突くからだぞ”
「何言ってんのか分からねぇよ!」
クッ、なんとか意思の疎通は出来ないものか……。
悠は憤りを感じながらいつもの癖で右手(この場合右前足だが)を見下ろした。
すると見下ろした右前足の肉球が微かな光を放っている。
“これは……”
確信は無かったが悠は膝を抱えたジョーに歩み寄ると、彼の膝を抱えた右手、先ほど傷をつけた手の甲に肉球を押し付けた。
「ココ!?」
「なんだコレ!?」
「光ってる……」
ケインが思わず口にした通り、ジョーの体は淡い光に包まれた。
光は広がりケインとアーニャも包み込む。
「ジョー!? 傷が!?」
ケインの言葉でジョーは右手の甲を見た。
それ程深い傷では無かったが、かすり傷でも無かった筈だ。
その傷が流れた血の跡だけを残し綺麗に消えていた。
「頬っぺたも直ってるよう!」
「ホントだ!」
「……マジで天使なのか?」
アーニャとケインは目を丸くして、ジョーは得体の知れない者を見る様に、悠を見つめた。
“天使になった覚えはないよ。神様チックな奴の仕事は手伝ってるけどね”
「だったらやっぱり天使じゃねぇか……お前、今喋ったか?」
「僕にも聞こえた……」
「ココ、喋れる様になったの!? 凄いよ、ホントに人間みたい!!」
おおう。以前ミツと名乗った幽霊を浄化した光は癒しと意思疎通の力も持っていたのか。
だったら早く言っておくれよ……。
“勝手にやると言ったのは君じゃないか”
“事務員!?”
“ダバオギトだ。いい加減名前で呼びたまえ……それとレミアルナの祝福に癒しと意思疎通、テレパスを追加したのは私だ”
“アンタが? ……追加したんならその事は説明してよね”
“少しは感謝したらどうだね……まぁいい、とにかくどうにかして彼らを救いたまえ”
“ヒントはないの?”
“勝手にやるんだろう? まっ、頑張るんだね”
ダバオギトはそれだけ言うと沈黙した。
さっさと終わらせて放り出したいのは山々だが、忌々しい事に上からは好きにさせろと言われている。
恐らくダバオギトが考える効率的なルートより、悠が導き出す答えの方が良い結果を生み出すからだろう。
声を掛けたのは癒しとテレパスを与えたのは自分だとアピールしたかったからだ。
流石になんでもかんでもレミアルナのお蔭だと思われては癪に障る。
“クソッ、お前なんか一生事務員って呼んでやる!”
沈黙したダバオギトに悠は精一杯の悪態をついた。
「ココ、誰とお話してるの?」
“ああ、さっき話した神様チックな奴とちょっとね。それより僕の仕事は君達をどうにかする事みたいだ”
「どうにかって、どうすんだよ?」
“さてねぇ……とにかく、君らが今どういった状態か教えてもらえる?”
悠は器用に肩を竦めるとジョーに下水道の子供達について尋ね始めた。
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