第53話 富めるもの貧しきもの
パンケーキを食べ終え、お腹も膨れた二人は店主の女性に礼を言って露店を後にした。
出来れば宿を取ってアーニャをベッドで眠らせたいが、彼女にそれをどう伝えるべきか。
“アーニャ”
「なあに猫ちゃん?」
悠はアーニャに声を掛け注意を向けさせる。
言葉は恐らくニャーとしか聞こえていないのだろう。
先程の店主ぐらいアーニャが勘が良ければ、意思の疎通も可能だと思うのだが……。
アーニャを大通りの脇の路地に導き人通りを避け、宿に泊まろうと伝える為、様々なジェスチャーを試みる。
「えっと……寝る? ……三角? あっ屋根だね! 屋根の下で眠る……宿屋さん? 私……宿屋さんに泊まれって言っているのね?」
“そう、それ!”
アーニャは頷いた悠に下唇を突き出し、しょんぼりと答える。
「駄目だよ猫ちゃん……宿屋さんは孤児なんて泊めてくれないよ……」
「フンッ、お前、やっぱり孤児か」
振り返ると上等とまでは言えないが、綺麗に洗濯された服を着た小太りの意地悪そうな少年が取巻き二人と共にこちらをニヤつきながら見つめていた。
「なにか用ですか……?」
「お前、酔っぱらいから銀貨をせしめていたろ? アレを寄越せよ」
「えっ、だってアレは猫ちゃんと私が……」
「四の五のうるせぇよ! 痛い目に遇いたくなきゃさっさと寄越せよ!」
「ひぅ……」
声を荒げた少年にアーニャは思わず身を縮める。
少し派手にやり過ぎたようだ。
街の悪ガキに目を付けられてしまった。
“そっちこそ、痛い目に遇いたくなければさっさと消えるんだね”
悠は怯えたアーニャの前にスタスタと歩み出た。
「おっ。踊ってた猫だ……へへッ、コイツは俺達が有難く貰ってやる」
「えっ!? ねっ、猫ちゃんは関係ないよ、お金はあげるから捕まえたりしないで」
「何言ってんだ? 金も猫も貰うに決まってんだろ?」
「そっ、そんなぁ……」
頭越しに交わされる会話に悠のフラストレーションは砂時計の砂の様に蓄積されていく。
「ゴチャゴチャ言ってねぇで早く寄越せよ!! ギャッ!?」
少年がアーニャに手を伸ばしたのを見て、悠は飛びあがり少年の顔に右フックを放った。
突き出た爪が少年の頬に浅く傷を刻む。
石畳に音も無く着地した悠は、爪に着いた血を舐めとるとそれを地面に吐き捨てた。
“この子を虐めるなら顔をズタズタにするよ”
「なっ、何だこの猫……!?」
「まるで人間みたいだ……」
「もしかして……悪魔?」
取り巻きの少年の言葉で悪ガキ三人は顔色を変えた。
「クッ、畜生、覚えてろ!!」
「あっ、待ってくれよマイク!?」
逃げ出した悪ガキを見送ると悠はやれやれと肩を竦めた。
“孤児のアーニャからお金を取ろうするなんて……教育がなってないね”
「……猫ちゃん。君は悪魔なの? おとぎ話みたいに私のたましいが欲しいのかな? だから優しくしてくれるの?」
“アーニャ、この世に悪魔なんて……いや、神様がいるんなら悪魔もいておかしくないのか……幽霊もいたし……”
振り返りアーニャに語りながら悠は顎に手を当て考え込んでしまった。
「えへへ、何悩んでるの? ……うん、君は悪魔なんかじゃないね。私を守ってくれる小さな騎士様……」
“わわっ!? アーニャ何を!?”
アーニャは悠を抱き上げギュッと抱きしめた。
彼女からは甘いハチミツの匂いがした。
“グッ……苦しい……”
ジタバタと藻掻き何とか抜け出す。
“ふぅ……アーニャ、きつく抱きしめるのは止めて欲しい。僕からすれば君は巨人なんだから”
「あう……ごめんなさい」
ジェスチャーを交え悠が説教すると、それが伝わったのかアーニャは申し訳なさそうに謝罪した。
“分かってくれればいいよ”
悠はアーニャを見上げ笑みを浮かべる。
「許してくれるの……よかったぁ……」
「ねぇ君、マイクたちが言ってたけど君も孤児なの?」
ホッとしたアーニャに彼女と同様……いや、彼女よりも汚れた服を着たくすんだ金髪の少年が声を掛けてきた。
「うん、そうだよ……アナタは?」
「僕はケイン……もし行くとこがないなら僕等の所においでよ」
そう言うとケインと名乗った少年がアーニャに手を差し出した。
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