第49話 決して手の届かない高みへ

 ゆうには理解出来なかった。

 彼らの主義主張は知らないが何故そんな簡単に命を捨てられるのか。


 どうすれば止められる?

 考えろ、考えるんだ。


「どうした、急に黙り込んで?」

「ねぇ、あのロケット、もう人は乗ってるんだよね?」

「ああ、乗組員は四名。発射直前、スタッフが離れた所を狙われた。で、それがどうした?」


「爆弾排除と同時に発射出来ないかな?」

「はぁ? お前、打ち上げにどれだけ手間がかかるか分かってんのか?」

「それはよく知らないけど……直前だったんだよね? だったらすぐに打ち上げは出来るんじゃないの?」


 観測手は遥か先に有るロケットに目をやると顎を撫でた。


「どうしてそんな事言いだした?」

「……テロリスト、アシャドの壁だっけ? あいつ等自爆するんじゃないかと……」


「自爆か……確かに可能性はあるな。一昨年の大統領暗殺も自爆テロだった。あん時は事前に察知して吹き飛ばされたのはダミーの車だったって報道されてたな……」


 観測手は少し考えこむと左耳に手を当て、胸の通信機を操作した。


「こちら狙撃班、カリート軍曹です」


「いえ、問題はありません。ただロブの奴が自爆の可能性を懸念してまして……」


「ええ、俺もそう思うんですが……それでですね、爆弾排除のタイミングでロデオ・フォーを打ち上げる事は……」


「いやしかし、こちらで全員排除するのは不可能ですよ。もし自爆してロデオ・フォーとクルーを失う事にでもなれば……」


「はい……はい……………でもそれで責任がとれますかね?中佐殿にも現場指揮官としてなんらかの処分が……」

“貴様にそんな事をいちいち言われる筋合いはない!!!”


 最後の言葉はイヤホンから漏れ出て悠にも聞き取る事が出来た。


「ご立腹だね」

「へへッ、あの野郎は出世欲の塊だからな。多分、無視出来ない筈だぜ。まぁ見てろって」

「わざわざ悪いね」

「……俺だって宇宙飛行士のトミーのファンなんだ。死んで欲しくは無いさ」


 十分程してカリートは再び左耳に手を当てた。


「カリートです…………14:15にイグニッション。狙撃はその直前ですね。了解です」


 カリートは悠を見てニヤリと笑った。


「作戦変更、大統領命令だそうだ。さすが大統領、中々演出って物を分かってる。……発射は十分後。俺達はその直前に起爆装置を破壊、続けてテロリスト達の動きを阻害する。成功すれば俺たちゃヒーローだぜ! まっ、失敗すりゃ全責任を負わされるだろうがな」


「了解……カリートありがとう」

「カリートだぁ、いつもジミーって呼ぶだろ? ……お前、ホント大丈夫か?」


「そうだった。ジミー、ありがとう」

「いいって事よ。狙撃手と観測手は一蓮托生だからな」


 発射までの十分は悠が感じた中で一番長い十分だった。


「発射一分前。狙撃は三十秒前から開始する。しくじるなよ」

「了解。カウントダウンをお願い」

「任せろ」


 ジミーは悠の横に膝を突き腕時計に目をやった。


「風は東0.5メートル。10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ファイア」


 ジミーの声に合わせ悠は引き金を引く。

 フェザータッチのそれは、抵抗をほぼ感じない程軽い。

 十回の……いや、十一回の失敗で銃の癖は掴んでいる。風の影響も考慮済みだ。


 悠は精密機械の様に照準を調整しながら四回引き金を引いた。


 爆弾が排除され、ロケットを支えていたブームとケーブルがロデオ・フォーから切り離される。

 流石に異変に気付いたテロリストたちが銃をロケットに向けたが、悠は彼らが銃を撃つ前に中の一人を撃ち抜いた。


 襲撃を受けた事でテロリスト達は彼らが乗って来たであろう車の影に身を潜めた。

 その間にもロデオ・フォーのカウントダウンは着々と進行していた。


「5、4、3、2、1、イグニッション!」


 ジミーが時計を見ながら自前でカウントダウンを行う。

 ロケットエンジンは射点保護の水を雲に変えながら、ロデオ・フォーをゆっくりと持ち上げて行く。

 その圧倒的な力はテロリスト達を巻き込み沈黙させると、僅か数分で決して彼らの手の届かない高みへクルー達を押し上げた。


「イヤッハー!!! 最高だ!!! まさか打ち上げを生で見れるとは思わなかったぜ!!!」


 はしゃぐジミーの横で悠も立ち上がると登って行く光を見上げた。


「アレは何処へ行くの?」

「今回は宇宙に拠点を作るその第一弾って話だ。いやワクワクするぜ! いずれ宇宙ステーションとか軌道エレベーターとか出来るかもな!」

「宇宙ステーションか……いいね」


 長い雲を引いて星となった宇宙船を見つめながら悠は小さく呟いた。

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