第46話 完全アウェイ

 吹き飛んだ屋根裏で空を見上げたゆうにリンが両手を握って熱弁している。


「先生ぇ、これは大きな強みです!! これからは大々的に霊能探偵として売り出しましょう!!」

「霊能探偵……うーん、それは止めた方がいいと思うよ」

「何でですか!? きっと儲かりますよ!! そしたら私のお賃金も……」


 顔を逸らしたリンの眼鏡が不敵に光った所で悠の視界は切り替わった。


 どういう事かは分からないが、あのミツと名乗った女性を浄化出来たのは悠の持っている力だろう。

 恐らく霊能探偵は見込みが無い筈だ。

 まぁ、何度か失敗すれば諦めるか。あの娘、意外とタフそうだったし何とかするよね。


 悠は頭をリン達の事から切り替え目の前の褐色の巨人に移した。

 場所は石組みの闘技場、周囲の観客は自分達に声援を送っている。

 いや、よく聞けば悠を殺せという声が大半の様だ。


 視線を右手に移す。

 鋲を打たれた革のグローブ、いわゆるセスタスという奴だ。

 装備といえばセスタスの他には腰布と編み上げのサンダルのみ。

 そのセスタスから伸びる腕は、筋肉は付いているものの明らかに目の前の巨人と戦うには細すぎた。


 観客の声も加味すればこの肉体の持ち主は死ぬ事が前提の噛ませ犬なのだろう。


「あの事務員……意趣返しのつもりじゃないだろうな……やっぱり、感情に任せてあんな事言わなきゃよかったかなぁ……」


 ダバオギトの無茶振りに悠は彼に反発した事をほん少し後悔した。

 しかし、人を思い通りの動かそうとする彼の姿勢にはやはり同意出来なかった。


 うん、アレは間違ってない。

 そもそもアイツ、心を読めるみたいだし……。


「チャンピオン!! 無敵の巨人ゴルゥゥゥドラァァァァ!!!!」


 そんな事を悠が考えている間にも闘技場では巨人の名前がコールされ観客たちの歓声が大きさを増した。


「そして本日の哀れな犠牲者はぁ!!! タラル村の勇者ぁ!!! リィィコォォォォ!!!!」

「せめて一分は粘れ!!!」

「俺は瞬殺に賭けてんだ!! さっさと死ね!!」


 どうやら観客達は悠というかリコがいつ殺されるかで賭けを行っているようだ。


「おい、リコ。俺はお前なら三分以上持つと信じてる。とにかく逃げ回れ」


 悠の肩に手を置いて眼帯の男が耳元で囁く。


「逃げ回った後は?」

「三分逃げたら死んでいい。へへッ、コイツは大穴だ。しくじるなよ」

「……」

「何だよ? 儲かった分はちゃんと家族に送ってやる。安心して死んで来い」


 味方かと思ったがこの男も敵だった様だ。


 クッ、完全アウェイのこの感覚……いいだろう、やってやろうじゃないか。


 右手を確かめる様に開閉させ強く握りしめる。

 相手がどんな巨漢だろうと人間である限り、急所は同じの筈だ。


 道は必ずある!




 そう気合を入れた悠だったが、鍛え上げられた肉体と一般人ではあらゆる意味でレベルが違い過ぎた。

 さらに素手での戦闘は如実にその差が出てしまう。


 試行錯誤を重ねて来たが既に五回以上、様々な方法で殺されている。

 その五回の戦いでゴルドラが現代で言えばプロレスラーに似た戦闘法を取る事は分かった。


 まぁ何にしても、何か手を考えないと勝利するのは難しいだろう。


「おい、リコ。俺はお前なら三分以上持つと信じてる。とにかく逃げ回れ」

「了解!」


 悠は両手を打ち鳴らすとゴルドラへ向けて足を踏み出した。


「オメェには悪いがよ。俺も仕事なんでな」

「分かってるよ」

「肝は据わってるみてぇだな。安心しろ一瞬で終わるからよぉ」


 ゴルドラが両手を前に突き出す。

 それだけで潰されるような威圧感を感じた。


 当然だが組み合いは駄目だ。

 組んだ瞬間持ち上げられ、地面に頭を叩きつけられて終わる。


 次に殴り合いだが、まともにやればこれも勝ち目は無い。

 リーチの差が大きすぎる事が一点。

 更に攻撃を躱し懐に飛び込んでも、筋肉の鎧は悠の拳では貫けない。


 幸いスピードだけはこちらが勝っているが、スタミナ勝負も向こうに分があるので持久戦も無しだ。


 取れる手はほぼ無いと言っていい。


 普通にやれば……。

 この状況、今こそあれを試す時では無いだろうか……。


「ではいよいよ試合開始です!!!! 始め!!!!」


 MC兼レフェリーの声が闘技場に木霊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る