第45話 たとえ神であっても
映像を見ていたダバオギトは繭が弾けたのを見て自身の目を疑った。
現地の女が話していた通り、
というか、現在、彼の管理下にある星で先天的に特殊な力を持った者は突然変異を除きほぼ皆無だ。
悠も勿論そうだし、彼の意識が宿った男も同様の筈だ。
「どこであんな力を……レミアルナ」
「なあに?」
不意の問い掛けに異形の女神は即座に答える。
同時にダバオギトのいた白い空間に青い肌の美女が現れる。
「君の仕業だろう?」
「何の事かしら?」
「惚けないでくれ。悠君に何か力を与えたろう?」
レミアルナは右手の一指し指を顎に当てて首を傾げる。
「力……祝福はしたけど……」
「クッ、神の祝福……それでか……」
「悠が何かしたのね……」
そう言うとレミアルナは片目を閉じ、暫くの後破顔した。
「あら、霊体に彼をぶつけたの……それじゃ浄化されても仕方無いわねぇ」
「手に負えなくなって泣き付いて来る筈だったのに……余計な事を」
「アハハッ、彼が泣き付いて来る訳無いでしょう。あの子はどんな状況でも道を探す子よ」
ダバオギトはキッとレミアルナを睨んだ。
「わぁ、怖い」
「祝福を外してくれ」
「嫌よ。私、彼の事とても気に入っているの。それにもう精神と融合してるから外すなんて出来ないわ」
神の祝福はあらゆる事柄にプラスに作用する。
それは目をみはる様な劇的な効果は無いが、気付きや偶然を誘発し運を味方に付ける。
また、霊体の様な肉体の軛から解き放たれた者には理を示す光として無条件に作用する。
地上を彷徨う悪霊が魂の循環に戻ってしまったのもそれが理由だった。
今の悠なら存在するだけで濁った場所は浄化してしまうだろう。
余談だが屋根が吹き飛んだのは、ミツの持っていた淀んだ力が光と共に解放された為で祝福その物の力では無かった。
「……往還機が成功したのもそれが原因か。クソッ、私の管理地にイレギュラーな存在は必要ないというのに」
「もう諦めなさいな。完全な管理なんて出来ない事は貴方も分かっている筈よ」
「うるさい! 僕が目を掛けていた星がどうなったか知っているだろう!?」
声を荒げたダバオギトに異形の女神は悲しそうな視線を送った。
かつては彼も創った星々を……そこに住まう者達を愛していた。
しかし、一つの星が異能者の暴走で滅んだ事で彼のスタンスは変わってしまった。
「大きすぎる力を個人が持つとたった一人の意思で星が滅ぶ。それが異能だろうとなかろうとね。文明が高度に発達するまで星を壊す様な巨大な力なんて要らないんだ」
「そうかもね……でも多様性を生む為には必要だと思うわ」
「君は生み出した星々を愛していると言っているが、本当に愛を知っているのか!?」
「……ダバオギト」
「彼女は……とても優しい子だったんだ……あんな風に消えていい子じゃ無かった」
ダバオギトは滅んだ星の娘に恋をした。
彼は娘を取り戻そうと禁じられている星の配置のリセットを実行し、まったく同じ星を作り出そうとした。
循環する魂を固定化させ、その魂が宿る肉体を全て再生してまで……。
その際、レミアルナも隠蔽に協力したのだ。
だが出来上がった星はダバオギトが積極的に介入したにもかかわらず違う物だった。
娘にとてもよく似た女性は確かに作る事が出来た。
しかし似ていれば似ている程、違うという思いは強く湧き上がってきてしまう。
同じ魂と肉体を使っても……神であっても同じ人間は二度と作れないのだ。
そんな事があってからダバオギトは深く星に関わる事を止め、イレギュラーな存在が生まれない様に方向性を設定し力を持った存在が暴走しないよう管理するようになった。
「まだ彼女の事、引き摺っているのね」
「何であの時、規定なんか律儀に守ったのか……無理矢理にでも助けていれば……」
「……」
「……ふぅ……君の所為で下らない事を思い出してしまった。ともかく悠君には仕事を続けてもらう。その後はサッサと引き取ってくれたまえ」
「……分かったわ」
宙に浮いたディスプレイに視線を戻したダバオギトを見て小さくため息を吐くと、レミアルナは白い空間から消えた。
「霊体が駄目となると……肉体的に圧倒的な差が必要かな……」
ダバオギトは残り少ない凍結した惑星の中から次の星を選択した。
画面には見事な肉体を持った褐色の肌の巨人が写し出されている。
それに相対しているのはまだ若い小柄な男。
男は巨人に挑み殴り合いで勝利をもぎ取らなければならない。
以前も似たようなシチュエーションは存在したが、あの時は悠に経験を積ませる意味もあり肉体的なポテンシャルの差はそれ程大きくは無かった。
勝つ方法はダバオギトのシミュレーションでは一つしかない。
しかし何のヒントも無しに正解に辿り着ける確率はゼロに等しいだろう。
それ以外の方法の有るには有るが成功率はかなり低い。
「悠君、私も君を虐めたい訳じゃ無い。素直に頼り給え」
現時点で指図しても悠は聞かないだろう。
心が折れ自分を頼ってきたら絵図通りに仕事をしてもらう。
その後、凍結惑星を全て稼働状態にした後すぐさまレミアルナに引き渡す。
引き渡した後、悠が彼女の管轄で何をしようがそれは彼女の責任だ。
動物にしてもいいが、悠は既に祝福を受けてしまった。
そんな存在は循環から追い出すしかない。
「君は英雄になりたいと言ったが、私の宇宙に星全体を動かす様なカリスマ的な英雄は必要ないのさ」
ダバオギトはそう呟くと悠の意識を男の体に転送した。
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