第42話 創造者の思惑を超えて
創造者ダバオギトは空中に映し出された映像を見ながら数万年ぶりに苛立ちを覚えていた。
当初、彼が
だが悠はほぼ無傷で船を地上、しかも母国の飛行場に着陸させた。
ダバオギトが成功率の低さから早々に破棄したプランを、たった数百回のチャレンジでやってのけたのだ。
結果的には文句の付けようの無い大成功。
しかし自分の管理物でしかない悠が自身の予想を超えた結果を出す事に、計画を重視するダバオギトは不満だった。
ああいったイレギュラーな存在は得てして自分の描いた絵図を破壊する。
最初は思ったより優秀だった事に喜んだが、今では自分の手から飛び出ようとする悠を少し疎ましく思っていた。
「趣向を変えるかな……流石にこれは泣き付いてくるだろう」
往還船から担ぎ出されクルー達の称賛を浴びている男から悠の精神を移動させる。
暗い森に佇む古い家、今まさにそこに足を踏み入れようとしている男の体にダバオギトは悠の意識を転写した。
日の光の下で沢山の人に囲まれていた悠は、いつの間にか古い日本家屋に似た家の玄関に立っていた。
真正面に板張りの廊下が伸び、その先は暗く闇に沈んでいる。
室内の空気は湿り気を帯び、とても冷たく感じられた。
血の臭いに似た腐敗臭の様な臭いが微かに香る。
「……ホラー……かな?」
「先生ぇ……やっぱり止めましょうよぉ……幾ら依頼料が高くても割に合いませんよぉ……」
黒い髪をした眼鏡の女性が悠の左腕にしがみ付きながら、泣きそうな声で訴える。
「依頼料……何を依頼されたんだっけ……?」
「何言ってるんですか!? この家に憑りついた悪霊を祓って欲しいって……まさかもう既に霊障が……」
女性は悠から飛び跳ねる様に離れると、アミュレットの様な物を取り出し悠に向かって突き付けた。
「悪霊退散!! 先生から出て行って下さい!! 出て行かないと…………お願いしますぅ……私、事務所をもう六回も首になって……凄く胡散臭いけど先生の所以外探偵っぽい事やれそうなトコ無いんですぅ……」
何だか凄く失礼な事を言われた気もするが、実際この体の持ち主の事はまだ知らない。
悠は気を取り直して改めて女性に目をやった。
黒い髪は肩口でスパッとカットされ、銀縁の眼鏡に小ぶりな鼻。
グレイのスカートスーツで踵の低い黒のパンプス姿。
探偵というよりは普通のOLと言った方がしっくり来るだろう。
「悪霊払い……僕は霊媒師って所か……それで君は僕の助手と」
「先生、記憶が……悪霊!? 悪霊の精神攻撃ですね!?」
状況整理の為、悠が呟いた言葉を聞いて女性はワタワタとアミュレットを振り回した。
「ちょっと落ち着いてよ……君の言う様に攻撃されたのかもしれない。少し記憶が混乱しているからね。でも何とか正気は保てているみたいだ」
「ほっ、本当ですか!? 乗っ取られて急に私を襲ったりとか……」
女性はかなり想像力が豊かでそして慌て者の様だ。
確かに余り探偵向きの性格とは言えないだろう。
「襲ったりしないから落ち着いてよ」
「……ホントにホントですね?」
「疑り深いなぁ……とにかく君の名前を教えてくれない?」
「私の名前も思い出せない!? 相当強力な霊の様ですね……やっぱり、お金返して帰りましょうよぉ」
「はぁ……いいから名前を教えて」
悠は少し気後れしながら再度名前を尋ねた。
「うぅ、分かりました。私はリン・クサカ。半年前から先生の助手をやっています。年は25歳、身長155センチ、体重は……46キロ……サイズは上から82、59、85ですぅ!」
悠は必要の無い情報があった事に首を捻った。
「あの……何で体重やスリーサイズを……?」
「えっ!? だって面接の時、調査に必要だって先生が……」
「そうなんだ……」
リンの言葉を聞いて悠は、自分が入ったこの体の持ち主が彼女の言葉通りとても胡散臭く感じて来た。
調査に必要って、体重やスリーサイズがどう必要なのか……。
「あの……先生?」
「うん、じゃあ、依頼内容を聞かせてもらえる?」
「はい! えっとですねぇ……この家の周辺を別荘地にしようという計画がありましてですねぇ……」
依頼内容を要約すると別荘地にしようと土地を買ったはいいものの、重機を入れ土地を造成しようとすると機械の不調が頻発。
さらに家を取り壊そうとした業者が次々に行方が分からなくなるという事が相次いだ。
別荘地計画の担当者は勿論、噂がある事は知っていたが馬鹿馬鹿しいと一笑に付し、ロケーションと土地の安さだけで決めてしまっていた。
しかし実際におかしな事が起き始めた。
土地は安いとはいえ、すでにそれなりの金額が動いている。
会社に計画の中止を提案しようものなら首は免れない。
という訳で祓い屋と呼ばれる者を頼ったのだが、どうもその界隈では有名だったらしく誰も依頼を受けてはくれなかった。
流れ流れて最後に辿り着いたのが悠の体の持ち主の事務所だったらしい。
ちなみにリンの話では先生には霊能力は無いそうだ。
……どうしようか、コレ。
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