第40話 未来を決めるのは

 気が付けばゆうの意識は真っ白な空間にいた。

 目の前には机が一つに椅子が二つ。


 机の向こう側、対面の椅子には事務員、ダバオギトが座っていた。


「ご苦労様、取り敢えず掛けたまえ」


 微笑みを浮かべ悠を様々な戦場に送り込んだ男は椅子を指し示す。

 悠にはその微笑みが以前とは違って見えた。

 椅子に腰を下ろしながら聞きたかった事を尋ねる。


「問題を解決した筈のクリス達の星に何でまた僕を送り込んだ?」

「……変わったね君、初めてここに来た時とはまるで別人だ」

「質問に答えろ」


 悠はレミアルナには好感を持っていたが、目の前の男には敵意に近いモノを抱きつつあった。

 レミアルナとの会話で聞いた言葉。


 “ダバオギトは甘いって言うけどね”


 彼女は生み出した星の生物を自分の子供だと思い大切だと言った。

 それを甘いというなら、事務員の姿をした目の前の男はそう考えてはいないという事だ。


 今まで出会った人々……彼らはダバオギトにとって新たな創造者を生み出す可能性を持った者達、それ以上でも以下でも無いのだろう。


「……君の考えている通りだ。私は自分が作った星に創造者の製造工場以上の感情は抱いていない」

「だったら何で僕に未来を変えさせようとする?」


「だって勿体ないじゃないか。星の配置は結構面倒だし、割り当てられた空間は広大とはいえ有限だ。かといってリセットして設定し直す事は許されていない……君なら分かるだろう?私は出来るだけ無駄は省きたいんだ」


 悠はダバオギトを怒りのこもった目で睨んだ。

 コイツは日本で嫌という程見た、目に見える結果しか評価しない悠の大嫌いな大人と同じ人種だ。


「何をそんなに怒っているんだい? 私は自分の仕事に忠実なだけだよ。上からの命令は絶対だからね……」


 そう言うと事務員は肩を竦めため息を吐いた。

 悠にはそれがニュース等で目にした、他者に責任を押し付け開き直る人々と同じに感じられた。


「……それで、なんで僕を同じ星に送った?」

「君はやり過ぎたんだ」

「やり過ぎた?」


「そう、あの星では君が意識を移した男を生存させるだけで良かった。彼が生き延びれば未来は変化するからね……でも君は彼を英雄にしてしまった。その事でかなり歴史も変わったし彼自身も変わってしまった。まぁ文明レベルの成長スピードは上がったからそこは喜ばしい事なんだけど……」


 ダバオギトは微笑みを湛えたまま悠の質問に答えた。


「何が言いたいんだよ?」

「働いてもらいたい星はまだ数か所残っている。君は途中で投げ出す事は無さそうだから、やって欲しい事を説明する事にした」

「アンタの言う通りに動けっていうのか?」

「そうだよ。君もその方がいいだろう? 目的が何か一々探さなくてもいいんだから」


 悠は暫く沈黙した後、ダバオギトを真っすぐに見つめ答えた。


「お断りだ。アンタは星に住む者達の心を全く考えていない。そんな奴の言う提案は飲めないね」

「……君の判断で全て行うと?」


「昔、何処かで聞いた。星の未来はその星に住む者たちが決めるべきだって……アンタは創造者かもしれないけど、彼らの命は彼らの物だ……思い通りに動かそうとするのは間違ってる。だから僕は僕が正しいと思う道を選ぶ、それ以外はやらない」


「ふぅ……発展途上の人風情が言うじゃないか……まぁいい、結局、完了を判断するのは私だ。好きにすればいいさ」

「ああ、好きにするよ」

「効率が悪いと思うがね」


 ダバオギトは聞き分けの無い子供を前にしたかの様に肩を竦め首を振った。

 そんな事務員の姿がぼやけ消えていく。


 ガラス越しに無数の計器が見えた。

 同時に体に強いGを感じる。


『これで…俺達も…クッ…終わりか……まぁ…流れ星に…なるなら……悪くない…最後かもな』


 悠の耳に少しノイズの混じった、Gの為か途切れ途切れの声が響く。

 横を見れば白い宇宙服としか呼べない代物を着た男がこちらに視線を送っていた。

 右手に目をやれば悠も同様の物を身に着けている。


「状況を…もう…一度…説明して…欲しい」

『……何度説明しても…変わらんが…する事も無いし…いいか……姿勢…制御用…スラスターが……突然…過剰噴射した……バランスを……崩し…回転した…機体は……ルートを逸れ……かなり深い角度で……大気圏に突入……する事に…なる……電波障害で……地上との…交信も…出来ん』


「つまり……?」

『俺達は……お星さまに…なっちまうって…事さ…』

「状況は…把握した……じゃあ…足掻こう…か?」


 隣の男は驚いた様子で悠を見た。


『お前……この状況で…まだ…何かやる……つもりか?』

「当たり前…だろう? ……任せてよ…きっと……道はある」


 そう言うと悠は隣の男に向かってヘルメット越しに笑みを浮かべた。

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