第39話 責任も罪も半分コ
ジャックに繋ぎをつけて貰いローダンに調べてもらった情報を持って、
髪はポニーテール、服は動きやすさを考えワイシャツとデニムパンツ、足元はスニーカーといった出で立ちだ。
前回と同じく街を散策していたクリス達と接触し、同様の手順でカフェに向かう。
不思議だったのはクリスが悠の言葉を聞いても余り驚かなかった事だ。
その疑問はカフェで話している間に解けていった。
どうもクリスは前回の事を朧げに覚えている様なのだ。
それがどういった理由でかは分からないが、悠にとってプラスなのは確かだ。
悠はローダンから得た情報をクリス達にも伝えた。
それによると暗殺者は手引きされたのでは無く、出席者の一人と入れ替わって会場に入っていたらしい。
その入れ替わった女性とは連絡が取れず、家族には仕事で暫く街を離れると会社の人間を名乗る男から連絡を受けていた。
彼女は小さな輸入会社を経営しており出張も多かった為、家族もそれ程奇異には思わなかった。
「なるほど、あの暗殺者……キーラという女はその経営者の女性と入れ替わっていたんだね……」
「うん」
「……では女性は誘拐されたと見て間違いないな。そんな事はキーラ一人では出来ないだろうから、敵はチームで動いていると考えるべきだろう」
ニックとミラーは未来の出来事を語る悠達を気味悪そうに見つめていた。
「なぁ、ミラー、信じられるか?」
「いや、この女もクリスも頭がイカれたって方がまだ信じられるぜ」
「だよな……」
ニック達が小声でそんな話をしている横で悠達は今後の話を詰めていく。
「で、どうするの? 夕方までに潜伏場所を見つけられる?」
「いや、この規模の街で当ても無く探すのは軍の力を借りても難しいだろう」
「いっそパーティーを中止する? クリス達が軍関係の施設にいれば流石に暗殺は出来ないでしょ?」
悠の提案にクリスは首を振った。
「それじゃあ根本的な解決にならない。それにパーティーがある事は多くの市民が知っている……英雄が暗殺者を恐れて逃げ出したともし噂が立てば後々厄介だ」
「じゃあどうするのさ。顔を知ってるのは僕とクリスの二人だけだよ。黒髪で背の高い女ってだけじゃ軍も対応出来ないんじゃ……」
「だね、モンタージュを作っても変装されたらそれまでだし……そうだな、いっそ相手の思うままにさせよう。君がいれば誰も殺さず殺されずやれる。そうだろう?」
思うままと首を傾げる悠にクリスはウインクして笑った。
それから数回のループの経て作戦は決行された。
夕刻、ホテルの最上階、パーティー会場に黒いドレスの女が現れた。
彼女は談笑している客を見回し、目的の人物を見つけるとツカツカとヒールを鳴らし歩み寄る。
「貴方がクリス・アインズ大尉?」
「ええ、貴女はキーラさんですよね。リンドで婚約者を僕に殺された」
「!?」
暗殺者、キーラはクリスの受け答えに驚き、一瞬動きを止めた。
「おっと……こういう危ないおもちゃはパーティーには相応しくねぇな」
クリスが注意を引いている間に背後に回ったニックがキーラを左腕を固め拘束、取り出した右手の手榴弾を彼女の手ごと握りしめる。
「嫌!! 放して!! こいつの……こいつの所為でゲオルクは!!」
暴れるキーラに悠は歩み寄ると彼女をギュッと抱きしめた。
「ごめんね……君の婚約者を殺したのは僕だ……」
「何訳わかんない事言ってるのよ!! 新聞で見たわ!! 殺したのはそこにいる男よ!! 何が英雄よ、この人殺し!!」
「そうだ。人殺しだ。英雄なんて言っても結局そうさ……だから君にはそうなって欲しくない」
「何なのよこの女!? 放して放してよ!!!」
喚くキーラを悲しそうに見つめていたクリスの背後に、一人の男が野次馬を装って忍び寄る。
男が懐に手を入れた瞬間、彼の背中に硬い物が突き付けられた。
「動くなよ。こいつの引き金は恐ろしく軽いんだ」
ミラーは男の耳元で囁く様に言った。
「チッ、失敗か……仕方ないプランCだ」
キーラについで第二陣も失敗した事を悟ったグルカ公国特殊潜入班のリーダー、スミスはプランC、強行作戦の開始をネクタイに仕込んだ無線を使い部下に指示した。
彼の指示を受けて動き出した男達に会場にいた客達が一斉に銃を向ける。
「なん…だと……?」
呆然とするスミスの肩にゴツゴツした手が乗せられた。
「お前が隊長だな?」
「……」
「諦めろ。ホテルの外にいた連中も全員確保している。これからお前達は尋問の後、国同士の交渉材料として使われる。待遇は期待するなよ、なんせ我が国の英雄を殺そうとしたんだ」
「……一つだけ聞かせろ。どうして察知出来た? 我々はもう十年この国で暮らしている……完全に溶け込んでいた筈だ」
「英雄には勝利の女神が付いてるらしいからな……」
逞しい肉体を黒いスリーピースに押し込んだ男は、キーラに抱き着いている栗色の髪の美女に目をやった。
釣られてスミスも悠を見る。
「あの女が……?」
「よくは知らんがね。さてもう行くぞ。英雄様はこれから街の有志たちと交友を深めんとならん」
そう言うと男はスミスに手錠を掛け会場から連れ出した。
悠はクリスと相談し参加者の中から暗殺チームを割り出した。
しかしそれで実際に軍が動くかといえばそうでは無かった。
いかに英雄といえど、これから自分を狙った暗殺が起きると言ってもそんな予言めいた話を軍が信じてくれる訳が無い。
クリスの言葉に従い捕縛してもし間違っていたら……。
パーティー参加者は街でも発言権の強い者達だ。
訴訟という事になれば莫大な損害賠償を払わなければならないだろう。
そこで暗殺チームを兵士が扮装した偽の会場に通し、相手が動き出すのをわざわざ待ったという訳だ。
何故そんな面倒な事をしたかというと、グルカに暗殺は割に合わないと分からせる為だった。
殺さず捕縛すれば情報が漏洩するだけ無く、実行犯自身の口からグルカが暗殺という卑劣な手段を取った事を内外に知らしめる事が出来る。
恐らく国際社会からのグルカに対する風当たりは相当強くなるだろう。
それで無くても予告なしに攻撃を仕掛けた事であの国は腫れ物扱いされている。
周囲の国から孤立する事は最早免れない筈だ。
スーツを着た兵士が喚いていたキーラを悠から引き離し手錠を掛ける。
手錠を掛けられたキーラは諦めたのか喚く事を止めた。
「キーラ、君はまだ誰も殺していないんだろう!? だったらこれからも誰も殺すな!!」
「本当に何なのよ貴女……」
「言った通りだ、君の婚約者を殺した奴だよ……」
「何なのよ……」
悲しそうに言った悠にキーラは困惑した様子で答えた。
客に扮装し紛れていた兵士に連行されていくキーラを悠は辛そうに見送った。
そんな悠の肩にクリスがそっと手を乗せた。
「どうしてそんなに彼女の事を……?」
「あの人は利用されただけだ。大事な人を失った悲しみと怒りを……捨て駒にされたんだよ……その原因を作ったのは僕だ」
悠は無性に悲しくて、腹立たしくて……唇を噛み吐き捨てる様に言った。
「ユウ、僕の体を操って公国の兵士を殺害したのだとしても、やったのは僕の体だ」
「でも引き金を引いたのは僕の意思だ。その責任は僕にある」
「そうかもね……でも僕にも戦いの記憶はあるし、殺したのはやっぱり僕だよ……だから責任の半分を背負わせてもらえないか」
「クリス……」
クリスは悠を振り向かせると優しく抱きしめた。
男性用の香水の匂いが微かに香った。
悠はクリスに抱きしめられも不思議と不快ではなかった。
それは多分、彼が辛そうに顔を歪めていたからかもしれない。
「笑ってよ……責任も罪も半分コ……そうなんだよね?」
問い掛けクリスの頬に手を伸ばす、彼がその手に左手を重ねた所で悠の意識はレアーナから抜けた。
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