第37話 天然なのがタチが悪い
扉を引き開けた悠に会場にいた人々の目が集まる。
悠を見た男性達はその殆どが好意的な反応を見せ、どよめきの声を上げた。
逆に女性陣はそんなパートナーの反応に
……悪いのは目移りする奴なのに……理不尽だ。
そんな感想を抱きつつ周囲を見回しクリス達を探す。
彼らの連れだと分かれば悪感情を抱いたとしても、何かされるという事は無いだろう。
会場はスーツ姿の男性と悠と同じくカクテルドレスを着た女性が、それぞれのグループに分かれ談笑していた。
以前ソフィアに入った時とは違い、こちらはより近代的で出席者も高齢な者から比較的若い者まで存在する大人の集まりだった。
形式は立食形式だが食事というよりは会話がメインで、皆、面識を広げる事が目的の様で食事をしている者は殆どいない。
「うぅ、クリス……どこだよ……」
「お困りかなお嬢さん?」
聞き覚えのある声が悠に問い掛ける。
「クリスを探してるんだけど……ってミラーじゃないか。クリスは何処だい?」
「……誰かと思ったらユウかよ……はぁ…グラマラスな美女とお知り合いになるチャンスだと思ったのによぉ」
「何だよ、美女は美女だろ?」
「確かに美人だけど、お前、中身は男なんだろ?」
クリスを含めた三人にはジャックに言ったように洗いざらいぶちまけた。
最初は半信半疑だった彼も、リンドの戦場での事を一から十まで詳細に話す悠を見て流石に信じざるを得なかったようだ。
まぁ、ジャックはレアーナの中身が別人であるとかいう話をしたとは思っていないだろうが。
「ミラー少尉。こちらの美女とお知り合いかね? 良かったら紹介して欲しいのだが?」
「申し訳ない。こちらの女性はアインズ大尉の知己ですので……なにとぞご容赦を」
「大尉の!? それは失礼した」
声を掛けてきた好色そうな中年の男は慌ててその場を後にした。
「ありがと、ミラー」
ミラーの服の裾をチョイチョイと引いて彼の耳元で囁く。
「うっ……お前、自覚が無いようだから言っておくが、女優並みの……いや、女優でもそうはいない美人なんだぞ。その辺少しは考えろ」
「そんな事言われても、まだ一回目だからさぁ……感覚が抜けないんだよぉ」
少し拗ねた様に唇を尖らせ目を逸らせた悠を見て、ミラーは一瞬固まった後、ブンブンと首を振った。
中身が男だとは分かっていても、仕草の一つ一つに可愛らしさと色気が付きまとう。
「どうしたの? 大丈夫?」
「やっ、やめろ!」
「ん? 何を止めるんだい?」
悠が小首をかしげミラーに尋ねると彼は引き剥がす様に悠から視線を逸らせた。
「……天然なのがタチが悪ぃぜ」
「何がだよぉ、分かる様に言ってよぉ」
両の拳をブンブンと振りミラーに抗議する悠の腕を取り、ミラーは無言のまま悠をクリス達の下へ導いた。
「クリス、ユウを連れてきたぜ……コイツ、自分の容姿の破壊力を全然理解してねぇ」
「ユウなのか? 随分とまぁ……やっぱ女は怖ぇなぁ」
「ふぅ……ユウ、何でそんなにめかし込んで来たんだい? 僕と面識を持ちたいというならもう目的は果たしたろう?」
「言ったと思うけど街の有力者はこの体の主、レアーナと君を恋人、果ては夫婦にしたいと思ってる。それで店の人間、ジャックって言うんだけど彼の提案でこうなった」
「中身を知っている君とそう言う関係になろうとは思えないよ」
クリスは苦笑しつつそう答えた。
「それなんだけど、昼間話したとおり、この状況……何が問題なのかまだ分からないけど、それを解決したら僕の意識は抜けると思うんだよね」
「……戦場の時みたいにかい?」
「うん、だからさ。もしよかったらこの体の持ち主、レアーナとも仲良くしてあげてよ、結婚とか考えなくてもいいからさ……それと君が上に行くなら、嫌々体を売って生きている女の子がこの国にはいるって事を覚えておいて欲しい」
「……分かった、約束するよ戦友」
そう言って笑ったクリスに悠は微笑みを返した。
「ありがとう……」
はにかんだ悠を見たクリスの顔が一瞬で真っ赤に染まり、その後、左手で顔を覆い深く深呼吸をする。
「どうしたの?」
「な、クリス。タチが悪いだろコイツ?」
ミラーがクリスの肩を叩き笑う。
「確かにこれはすさまじい破壊力だ。ユウ……自覚してくれないかな?」
「何をだい?」
「君が現在は絶世の美女だって事をさ」
「はぁ……分かったよ。でも君達と話してるとつい忘れちゃうんだよねぇ……」
「困ったもんだな、ガハハッ」
三人の中で唯一妻帯者であるニックはクリスとミラーの背中を叩き豪快に笑った。
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