第34話 戦友との再会
クリスは連れの二人と談笑しながら道路沿いの歩道を歩いていた。
街行く人々は彼に気付いた様子は無い。
クリスは事前に渡された写真と違い、顔中髯に覆われていた。
その髯と普段着姿ですれ違っても英雄だとは気付かないようだ。
悠自身、言われなければ童顔の写真の人物とイコールだとは思えなかっただろう。
とにかく接触しないと。
そう思ってこちらに背を向けて去って行くクリスの背中を追う。
しかし軍人だからだろうか、クリスも連れの二人も歩くのが早く小走りで追っても中々追いつく事が出来ない。
悠は仕方なく慣れない踵の高いサンダルを鳴らし、全力疾走に近い形で彼らの後を追った。
角を曲がった三人を見失うまいと曲がった先で、立ち止まっていた誰かの背中に思い切り顔をぶつける。
「ぶわっ!? ……いてて……」
咄嗟に相手の服を掴んで体を話すと、ぶつかった衝撃で痛めた鼻を思わず押さえる。
「大丈夫ですか?」
「いや、こっちこそ、ちょっと急いでたから……」
視線を上げると追っていた三人が驚いた様子でこちらを見ていた。
ターゲットのクリスの連れ二人を見て悠の目が見開かれる。
「アッ、アンタ達は……」
「ぼっ、僕等は唯の観光客だよ」
「そうそう俺たちゃ観光客」
クリスは少し慌てて、連れの男はおどけた様子でクリスの言葉に乗っかった。
しかし悠はクリス達の言葉には反応せず、連れの二人の顔を交互に見返した。
この二人はあの戦場で一緒に戦った二人で間違いない。
サングラスや帽子で隠してはいるが何百回と見た顔だ。見間違う筈もない。
という事は……。
悠はクリスの右手を手に取るとその掌をまじまじと眺めた。
「そうじゃないかとは思っていたけど……そうか……君達は生き残ったんだねぇ……」
悠の心にはかつての自分……いや、激闘を共にした自キャラの後日談を見た様な喜びが沸き上がっていた。
少し涙ぐみながらクリスの手を握り笑みを浮かべる。
「えっ、何を……」
突然見知らぬ女に微笑み掛けられたクリスは戸惑いつつも頬を赤らめた。
「おい、この女イカれてんじゃねぇのか?」
「もう行こうぜ」
連れの二人が訝し気に悠を見ながらクリスを促す。
「まっ、待って……話を聞いて欲しい」
「何の話だよ? 俺たちゃ久々のオフなんだ。わりぃがお姉ちゃんにかまってる暇はねぇぜ」
「そうそう、こう見えて忙しいんだよ俺達」
「ニックとミラーは黙ってて」
悠が二人の名前を口にすると彼らの目が細められた。
「……テメェ、何で俺達の名前を知ってる?」
かつての上官、ニックが悠をサングラス越しに睨む。
「それも含めて話がしたい」
「どうするクリス……」
「……話を聞こう。新聞に顔を出していない二人を知っていた、放っておく訳にはいかないだろう……」
「マジかよぉ……休みは三週間ぶりだぜぇ……」
ミラーは残念そうに肩を落としため息を吐いた。
「ごめんねミラー……そんなに時間は掛からないと思うから……」
悠はそんなつもりは無かったが、身長差でどうしても見上げる形になる。
今現在、悠が入っている体は容姿を売り物にしている高級娼婦のレアーナだ。
如何に町娘風の姿であってもその上目遣いは破壊力抜群だった。
ミラーは改めて見た悠の姿に表情を緩める。
「いや、これも仕事の一環だしな。気にする事はねぇよ」
「ミラー、見た目に騙されるなよ……」
「ニックもゴメンね……そうだ、奥さんには会えたの? もう子供は生まれた?」
「姉ちゃん……テメェ、スパイかなんかか?」
「それも含めて説明するよ……僕、君たちが生きてて本当に嬉しいんだ……」
満面の笑みを浮かべた悠に顰め面だったニックもたじろぎを見せた。
「とにかく、ここで立ち話をしているのは目立つ。場所を移そう」
「そうだな……姉ちゃん。付き合ってもらうぜ」
「勿論!」
「……なんか調子狂うな……アンタ、ホントに何者だよ……」
ホクホク顔の悠にニックは苦笑しながら答えた。
場所を落ち着いた雰囲気のカフェに移し、悠はボックス席でクリス達と対面していた。
大柄な三人と町娘の対比は傍から見ていると尋問の様だったが、座っている娘が嬉しそうに笑っているので周囲の客も知り合いなのだろうと特に注目はされなかった。
「さて、何で俺達の事を知ってんのか答えて貰おうか?」
ニックがテーブルに肘を置き、ベテラン刑事の様にズイッと身を乗り出す。
「……信じてもらえないかもしれないけど……僕、クリスの体に入って戦った事があるんだ」
悠の言葉にニックとミラーは一瞬で悠を見る目を変えた。
悠自身、二人の気持ちはよく分かった。
見知らぬ女が突然こんな事を言いだせば頭がおかしいと思われても仕方が無いだろう。
だが、狂人を見る目をしたニック達と違いクリスだけは悠の顔を真っすぐに見ていた。
「君が……そうなのか?」
「おい、クリス。お前、この姉ちゃんの言う事信じるのか?」
「二人には言ってなかった……いや言えなかったんだけど、リンドの時、僕はおかしな夢を見たんだ……何回、いや何百回も同じ場面を繰り返す、そんな夢を……」
クリスの告白にニックとミラーは彼の顔を見返した。
「どういう事だよ?」
「夢は同じ場面を繰り返しながら、徐々に戦況を変えていった……最後には僕一人で、いや、君達も含めて三人で勝っていた……」
「それはお前のやった事だろ?」
「……違う。その夢から覚めた時には戦闘は終わっていたんだ」
「んじゃ何か? この姉ちゃんがお前の体に乗り移って戦ってた。そう言うのか?」
「そうだと思う……あの夢の経験のお蔭で僕はその後の戦いも生き延びる事が出来た……それで本当に君がアレを?」
悠は頷きを返し答える。
「覚えてたんだね全部……何だか懐かしいなぁ……最初の時はニックとミラーにどやされて、僕は震える事しか出来なかった……」
「マジなのかよ……」
「君もミラーもすぐ死んじゃうからホント苦労したよ」
両手を組みその上に顎を乗せて懐かしそうに微笑みながら思い出を語る町娘に、ニック達は気味悪げにクリスは町娘と同様の笑みを浮かべて視線を向けた。
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