第31話 自分が正しいと思う事を

 次に目覚めた場所は白く明るい場所だった。

 柔らかな清潔な寝具の中にゆうは横になっていた。


 夢を見ていた、どんな夢かは余り思い出せないがとても嬉しかった事だけは覚えている。

 その為か源九郎げんくろうを焼いた事で感じた苦しみは幾分和らいでいた。

 それでも彼の瞳を思い出すと、重苦しい気持が胸の中に広がったが。


「目が覚めたのね。どう少しは休めたかしら?」


 青い肌の美女の無数にある手の一つが優しく悠の頭を撫でていた。


「レミアルナさん……お願い聞いてくれたんですね……」

「ダバオギトはかなり渋ったけどね」

「……すいません、ありがとうございます」

「いいのよ。私にとって貴方は恩人だもの……」


 自分はそれ程の事をしただろうか……。

 悠がぼんやりとレミアルナの顔を見返していると彼女は微笑みを浮かべ答えた。


「私は創った星に生きている者達を自分の子供だと思ってるの……貴方はそれを救ってくれた」

「僕がどうにかしたのはたった一つでしょう?」

「そうね……でもどんなに多くの星を抱えていても、一つ一つの大切さは変わらないわ。ダバオギトは甘いって言うけどね」


 悠にも彼女の言う事が何となくだが理解出来た。

 生きていた時は分からなかったが、今は分かる気がする。

 一人で生きているつもりでも、人と世界は繋がっている。

 いや、自分もその世界の、宇宙の一部なのだ。


 連続する戦い、その戦いが切り開いた未来。

 そのどれも全てが繋がっていた。


「さぁ、もう少し眠りなさい」

「はい……レミアルナさん……僕のしている事は正しい事なんでしょうか?」


「分からないわ。私達、創造者も更に上の存在に役割を与えられているだけなの……貴方も私もその誰かが望む世界を創る為に動かされている駒なのかもしれないわ」


「神様でも分からないんですね」

「私やダバオギトは貴方達より少し物がよく見えて、少し手の届く範囲が広いだけ……結局、自分が正しいと思う事をするしかないんだと思うわ」


 そう言うとレミアルナは悠の頭を撫でながら歌を歌ってくれた。

 聞いた事の無い、だが何処か懐かしいその歌を聞きながら悠は何時しか眠っていた。


「眠ったのかね?」


 唐突に男の声が響く。

 事務員姿の神、ダバオギトがいつの間にか彼女の後ろで悠を見つめていた。


「ええ」


「君も酔狂だな、そんな仲間になるかどうかも分からない者に……彼の星は未だに国家や民族が利権を奪い合い争いを続けている。凍結する程では無いが創造者を生み出す事が出来るかは未知数だよ」


「……最終的には彼をどうするつもり?」

「やり抜けば約束通り英雄として生きられる舞台を用意するさ」


 レミアルナは悠に視線を移し頬に手を当てた。

 ダバオギトは自分が管理する星の中で死亡した有望そうな若者の精神を引き寄せ、言葉巧みに試練と称し解決役を担わせていた。

 だが、大体の者は二度三度と連続して過酷な状況が続くと、絶望に打ちひしがれ諦めていたそうだ。


 悠の様にどんな状況になっても打開策を探し諦めない者は稀有な存在だ。


 しかしダバオギトはそんな悠であっても、結局は自らが創り出した世界の一住民としか考えていないようだ。

 先程、話した時は悠のレミアルナへの願いを聞き入れず、そのまま次の戦場へ向かわせようとしていた。

 レミアルナはそんなダバオギトを説き伏せ、半ば強引に悠を休める為に創ったこの空間に連れて来ていた。


 彼が使い潰す様に悠を戦わせる理由は何となく分かる。

 恐らくだが彼は上にバレない内に事を終えたいのだろう。


「……ねぇ、もしこの子が望んだら私の所に貰えない?」

「創造者間での管理個体の移動は原則禁止だろう? この前は借りがあったから聞き入れたけど……」

「いいじゃない一人ぐらい」


「よほど気に入ったんだね……分かった。こっちの案件ももうすぐ終わりそうだし、そうなれば彼の仕事も終わりだからね。いいよ」

「そう……ありがとう……」


 ダバオギトの言う様に創造者として自分は甘いのかもしれない。

 しかし、彼女は懸命に生きようとする者達を愛おしく思い、愛さずにはいられなかった。


 再び歌い始めたレミアルナに肩を竦めると、事務員の姿をした神は白く明るい空間からいつの間にか消えていた。

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