第24話 完璧な芸術作品
屋敷外にいる暗殺者の位置は判明している。
そちらは特に問題は無かった。
彼らは
恐らく侵入班が発見された場合、騒ぎを起こし脱出を助けるのだろう。
問題は屋敷に潜入している連中だ。
庭にいた四人はそれ程の手練れでは無い。
だが屋敷に入り込み動いている二人は恐ろしく腕が立った。
気配が感じられず、気が付けば振り出しに戻る。
そんな事が既に十数回続いている。
「まさかステルス迷彩とか使ってないよね……」
屋敷の中はランプは消され薄暗い。
一応、ターゲットである伯爵の息子の部屋は見つけたが、暗殺者達の動きは掴めていない。
現在は部屋の近く、廊下に置かれたキャビネットの影から入り口を見張っている状態だ。
入り口周辺のランプには火が入れられ、警備の為か男が二人直立不動で立っている。
彼らには悪いが今回は敵を見定める為、犠牲になってもらうつもりだ。
息を殺しその時を待つ。
やがて全身を黒で包んだ暗殺者が二人、蜘蛛の様に天井からぶら下がり警備の男の背後を取った。
二人は目配せを交わすことすらなく、同様のタイミングで絞首紐を使い男達を殺害する。
明りの中に降り立った暗殺者達はピッチリとしたボディースーツと覆面を纏っていた。
体のラインから二人とも女性であると分かる。
顔は分からないが背丈、体つきまでそっくりで、シャッフルされればどちらがどちらか言い当てる事は出来そうに無い。
彼女達は絞殺した男達を天井から伸びたワイヤーにぶら下げ、遠目には警備している様に見せかけた。
その後、男の腰のポーチを探り部屋の鍵を抜き取るとドアを開けて部屋に滑り込んだ。
悠がそれを見届けて十秒しない内に視界はループした。
警備を殺し、最終的なターゲットを殺害するまで一分弱、鮮やか過ぎて溜息しか出ない。
「はぁ……」
「どうした? 女にでも振られたか?」
「……そうだね。余りにレベルが高すぎてどう攻略するか悩んでるんだ」
「何だぁ? 高級娼婦にでも入れ込んでんのか? 止めとけ止めとけ、あいつ等は貧乏人なんぞ相手にしねぇ」
相棒は悠を見てニヤッと笑みを浮かべた。
「そういう訳にはいかないんだ。でも聞いてくれてありがとう」
男に答えながら流れる様にナイフを振るい男を眠らせる。
その後、悠は屋敷の外と庭に潜む暗殺者を眠らせながら女暗殺者をどう止めるか考えを巡らせた。
相手が一人であれば何とかなるかもしれない。
しかし、今回は息の合った、いやシンクロしているような二人だ。
正面からぶつかっても勝つ見込みは薄いだろう。
……待てよ。今まで直接対決で勝つ事を考えていたが、それは絶対じゃない。
二人がどんな動きをするかこちらは事前に調べる事が出来るのだ。
其処を突き詰めればなにも真っ当に戦う必要は無い筈。
そうと決まれば……。
悠は次のループから暗殺者の排除を後回しにし、女暗殺者の動きを探るべく屋敷の侵入を優先した。
それと並行して彼女達をどう倒すか、屋敷内の状態を確認しながら作戦を練り上げる。
百回以上試行錯誤を繰り返し、これだと思う物が出来た頃には悠の動きは彼女達と遜色無い物に変わっていた。
「出来た……完璧だ……これは芸術作品と呼んでもいいんじゃ無いだろうか……」
準備を終えた悠は、薄暗い廊下の隅の物陰で潜みながらその時を待つ。
やがて二人の暗殺者が廊下の向こうから影に潜む様に現れた。
唇を舐め、タイミングを計る。
暗殺者達がポイントを通過するのを見計らい、悠は予め張り巡らせた糸をナイフを使い断ち切った。
トラップが発動し、ばね仕掛けの小型ボウガンが矢を射出。
矢は真っすぐに二人に向かうも、彼女達は素早く反応しそれを左右に分かれ壁際に躱す。
だが交わしたその足元には胡桃の上に置かれた給仕用のトレイが設置されていた。
トレイには床に敷かれた絨毯と同じ色の布がかぶせられ、一瞬では判別出来ない様にカモフラージュしてあった。
暗殺者達はシンクロした様な動きでトレイに足を取られ、バランスを崩し壁に背中をぶつける。
と同時に壁に張られていた糸が打ち付けた背中によって切断され、シャンデリアに紛れて吊り下げられた分厚いガラスの花瓶が落下。
二人の頭を直撃した。
「「ガフッ!?」」
まったく同じタイミングで首を振りながら、フラフラと廊下の中央に歩を進める。
「「グッ!?」」
その進めた左足が絨毯ごと足を咥え込んだ。
伯爵は狩猟が趣味だったようで獣用の金属の罠、所謂虎バサミを持っていた。
悠はそれを絨毯の下に設置していたのだ。
二人は瞬時に反応し罠から足を引き抜こうとしたが、それより早く天井に設置されていたロープに結ばれた彫像が振り子の様に二人の頭を再度打ち付けた。
「「カハッ……」」
二つの振り子は廊下の手前と後方、交差する様に設置していた。
暗殺者はその振り子の勢いのまま、悠から見てそれぞれ前後に体を横たえる形で気を失い、ピクピクと体を震わせていた。
それを確認し悠は物陰から踊り出ると初代ライダーの様なポーズを決め叫ぶ。
「ピタ〇ラァ……スイッチッ!! ………ふぅ、もう少し時間があればもっとこだわれたんだけどね」
遠くから足音が聞こえる。
どうやら物音を聞きつけ警備が駆け付けて来たようだ。
二人の暗殺者を発見すれば、伯爵も屋敷の警備を増強するだろう。
そんな事を考えている間に悠の視界は切り替わった。
「殿、我らの国もここまでじゃ。降伏か死か……ご下知を」
白髪白髭の大鎧を着た老人が悠の前、板の間に膝をついて頭を下げる。
部屋の外は暗く、部屋には油を指した皿の上で小さな灯りが揺れていた。
降伏? 死? 大鎧を着た武士……こういうシチュエーションはドラマで見た事がある。
戦国時代の武将が攻められて終わる時の奴だ。
「何だよこの状況!? もう少し前だったら外交で何とか出来たんじゃないの!?」
「殿、遅かれ早かれ我らの国は佐竹か山下の手に落ちておりました。今更言うても詮無き事……」
クソッ、あの事務員、嫌がらせじゃないだろうな。
悠は板張りの天井を見上げ、にこやかに笑う事務員の姿を思い浮かべながら心の中で一通り文句を言った。
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