第23話 タイムリミット

 塀に囲まれた大きな屋敷。

 その周辺の薄暗い路地に潜む暗殺者達をゆうは次々と狩っていった。

 まぁ狩ったといっても眠らせただけだが。


 今回の体は暗殺者というだけあって、とても身軽で動きもしなやかだ。

 過去に経験した戦いの記憶を十分に活かす事が出来る。

 また、持っていた鉤付きのワイヤーや、麻酔薬が塗られた投げナイフの存在が排除にとても役立った。


 それらの存在に気付けたのは暗殺者達の会話からだったが、今回は妙に運が良いように思える。

 闇雲に探す事無く、比較的早めに暗殺者達を見つける事が出来たのだ。


 レミアルナが言っていたプレゼントというのはこの事かもしれない。


「流石、神様。運の数値もいじれるのかも……事務員さんもこういうのくれればいいのに。気が利かないなぁ……」

 “悪かったね、気が利かなくて。まったくレミアルナも勝手な事を……”

「……見てたんですか?」


 “見てたよ、ずっと”

「だったらヒントとかくれてもいいじゃないですか?」

 “それをすると干渉した事になるの。バレたら報告書じゃ済まないんだから、君も私達の事は安易に口にしないように。じゃ頑張って”


 脳裏に響いた声は言いたい事だけ言うと沈黙した。

 自分が望んだ事とはいえ勝手だなぁ……。

 嘆息しながら悠は屋敷に目をやった。


 屋敷周辺に残っていた暗殺者は全て排除した。

 殺してはいないが暫く目覚める事は無いだろう。

 だが、この体の相棒が言っていた二十人には足りていない。


 自分と相棒を除けば動いているのは十八名。

 その内、十二名は排除済みだ。

 恐らく残り六名は既に屋敷に潜入した物と思われる。


 彼らの目標は伯爵の息子。

 ループが発生しない事を考えるとまだ殺されてはいない筈だ。


「潜入ミッションか……メ〇ルを思い出すなぁ」


 大好きなゲームの事を思い出しつつ悠は鉤付きワイヤーを屋敷の塀に投げた。

 しっかり掛かった事を確認すると細いワイヤーを伝いスルスルと塀を登る。

 手早く塀を乗り越え、剪定された美しい庭の茂みに身を隠す。


 庭は低い生垣が配置され屋敷の正面には白い石の石畳が引かれていた。

 その中心には噴水が設置され中央の像から水が噴き出している。


 その庭の所々に灯りを持った歩哨が立っていた。


 周囲を探る悠の目に黒い服を着た男達が、生垣に身を隠しながら屋敷の裏に回っているのが映る。

 暗殺者の一組だろう。


 どうする、ここで騒ぎを起こし歩哨の注意を引くべきか……。

 しかしそれでどうにか出来るなら、今まで物と比べて簡単すぎる様に思える。


 悠は判断に迷ったがどうせループするのならと、暗殺者を排除する方向で動く事を決めた。

 歩哨に気付かれない様、暗殺者達の背後に回る。

 距離は十メートル程、気付かれる前に投げナイフを使い、二人の意識を手早く奪う。


 この体の能力もあるだろうがドラゴンを倒した時の投擲の経験が活きた。

 二人の装備を探りナイフを回収、残りは四。


 歩哨の位置を確認しながら、悠は気絶した二人を庭の茂みに隠した。

 この分なら全員倒し、その上で伯爵に暗殺について警告出来るかもしれない。

 そう思い庭を移動していた悠の視界が突然切り替わる。


「えっ……失敗した……?」

「失敗? 何をだ……まさかテメェ仕事の事を漏らしたんじゃないだろうな?」


 相棒の男の言葉を無視し悠は状況を考える。

 恐らく先程ループが発生した時点で伯爵の息子は殺害されたのだろう。

 その結果がどう未来に響くのかは分からないが、息子の死は伯爵の今後を変えるには十分な衝撃の筈だ。


「今回はタイムリミットが……それも相当シビアみたいだ……」

「さっきから何言ってんだ? 薬でもキメてんのか?」

「キメて無い。それよりゴメンね」

「あ?何謝って…!?」


 男が喋り終わる前に悠はナイフで男の首を浅く切りつけ意識を奪った。

 余り深く切ると頸動脈まで切り裂いてしまうだろう。

 だが中世の戦場での経験はどの程度で刃が頸動脈に届くかを悠に理解させていた。


 男が崩れ落ちるのを抱き留め地面に寝かせる。

 今回はとにかくスピード勝負だ。

 暗殺者が息子を殺す前に止める。その後、誰かに暗殺の可能性を示唆する。

 ……まぁそれは庭に何人か転がしておけばいいか。


 方針は決まった。

 後は暗殺者の配置を探り、全員戦闘不能にすれば作戦完了だ。


 悠は首を鳴らし肩を回すと、軽く伸びをして最初のターゲットに向け駆け出した。

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