第20話 ドラゴンスレイヤー

 パーティ全員に武器を渡した事で戦闘は味方のペースで進んでいた。

 パラディンのレアンと侍の秋水は、武器を手にした事で飛躍的に攻撃力が上がっていた。

 また僧侶のロックダミスと魔法使いルルミアラの二人も、信仰心と魔力が向上する錫杖と杖を持った事で魔法の効果が底上げされた。

 エルフのリーファランは投げ渡した魔導弓を用い魔力の矢を連発している。


『おのれぇ、力なき者共にここまで好き勝手されるとは……』


 ただ戦力的に強化されたとはいえ、青い竜は傷を負ってもそれを再生してしまう。

 スタミナが切れれば結局全滅させられるだろう。


「レアン、このままではジリ貧じゃ!」

「分かっている! ……シン! もう強力な武器は無いのか!?」


 レアンは宮殿内を駆け回り武器を投擲していた悠に問いかけた。


「無い!! 渡した物が一番いい奴だ!!」

「そうか……」

「どういたす!」

「手持ちのカードで勝負するしかないだろう! いくぞ、うおおおぉ!!!」


 レアンはそう言うと、悠に渡された盾を構えドラゴンに特攻を仕掛けた。


「致し方あるまい……」


 彼に続き秋水も駆け出す。


「こっ、コンビネーション!? ルルミアラ!! 僕たちも!!」

「分かってる!! リーファランお願い!!」

「任せて!!」


 よし、ここからだ。

 先程のやり取りの後、レアンは必ず特攻する。

 彼の持つ技の中で最高の物を使い、ドラゴンに浅くない傷を与える筈だ。

 それに続いてパーティメンバーは各々が阿吽の呼吸で連携を続ける。

 それは何度やっても変わらなかった。


 パーティの新参者である悠がアレコレ指図するより、彼らの動きをサポートした方が事がスムーズに進む。

 何度もループを経験し悠はその事を嫌と言うほど思い知った。


 長年連れ添った仲間同士の連携に異物が入るとそれだけでリズムが乱れるのだ。


 振り下ろされたレアンの剣が爆発を呼び竜の左足を抉る。

 それにかぶせる様に秋水が刀を振るい肉の抉れた左足を断ち切った。


 連携の途切れた隙間を悠は投擲によって補った。

 効果は薄いが傷が多くなればそれだけ回復速度が鈍る。


 二人が離れたのを見計らい、足を失い地面に前足をついたドラゴンの体にリーファランが放った無数の光の矢が浴びせられる。


『ググ……』

「効いてる!!ロック!!」

「うん!! 至高神レミアルナよ、我が祈りを聞き届け彼の者に神の怒りを!!」


 連発で魔力切れを起こしたリーファランが膝を突くと同時に、ロックダミスの祈りが天に届く。

 宮殿の屋根はドラゴンが出入りする為か、大きな穴が開きそこから空が覗いていた。

 その穴を通り凄まじい閃光がドラゴンを貫く。


 ロックダミスの呼んだ雷が竜の肉体を焼き、周囲には肉の焼ける匂いが漂った。


「……すごくいい匂いだ」


 悠は目的の場所に駆けながら昔行ったキャンプでのバーベキューを思い出した。


 最後の一人、ルルミアラはそんな悠に気付く余裕も無く、自身のもつ最高の力を放つ為、精神を集中していた。


「異界を巡る混沌の太陽、その深淵の炎よ、わが剣となりて立ちふさがる愚者を切り裂け!!」


 ルルミアラの掲げた杖の先から青黒い光が走り、レーザーカッターの様に竜の右肩を切り裂いた。


『グオオオオオン!!!』

「はぁ、はぁ……やった?」

『許さぬ!! 許さぬぞ虫けら共!!!』


 傷だらけになった竜は左手を地面に叩きつけ、無理矢理、体を引き起こした。

 息を吸い込むと今までに無い程の光が竜の喉から漏れる。


『我が宝ごと焼き殺してくれる!!!』

「そういう訳にはいかないんだよねぇ……」

『貴様、それは!?』


 竜の正面に黒い瘴気を放つ刀を持った悠が立っていた。


「シン!! それは呪いの武器だぞ!?」


 レアンの引きつった声を聞きながら、悠は刀を鞘から抜くと大きく振りかぶり投げた。

 鋭く回転しながら飛んだ刀は熱したナイフでバターを切る時の様に、抵抗無く竜の眉間に根本まで食い込んだ。


「グガッ……」


 その勢いのまま竜の頭は跳ね上がり、そのまま仰向けにゆっくりと倒れ宮殿を震わせた。


「……ねぇやったの?」


 リーファランが信じられないといった声音で誰ともなく尋ねる。


「倒したのか? 俺達が……」

「エルダ―ドラゴンを……」


 レアンも秋水も倒れた巨体、そして自分の右手を見ている悠を茫然と見つめていた。


「ドラゴンスレイヤー……僕等、ドラゴンスレイヤーになったんだよ!」

「そんな事よりお宝よ!! これだけ酷い目に遇ったんだから持てるだけ持って帰るわよ!!」


 ロックダミスは神に祈りを捧げながら喜びの声を上げ、ルルミアラは周囲に散らばっていた高価そうな宝石を集めていた。

 そんなルルミアラにリーファランが駆け寄り抱きついている。

 レアンと秋水も歩み寄りお互いの拳をぶつけていた。


 仲間か……。

 仲の良さそうな彼らの様子を少し羨ましく思いながら、悠は黒い瘴気に焼かれ少し痛みの感じる右手を確認した後、倒れたドラゴンへ歩み寄った。


「ねぇ、まだ生きてるよね?」


 ドラゴンの頬に手を当て語り掛ける。


『人に後れを取ろうとは……』

「人間も馬鹿にしたもんじゃないでしょ? それより苦しいなら止めをするけど?」

『いらぬ……最後に名前を教えろ……この身を屠った者の名を』


「悠」

『ユウだな……見事な立ち回りだった……褒めて……やる……』



 それを最後に竜の金の瞳は光を失った。


「最後まで高飛車な竜だったなぁ……」


 呟きと共に竜の姿は薄れ、悠は何処か見覚えのある白い部屋に移動していた。

 様々な調度品が並べられた部屋の真ん中、悠の正面に青い肌で無数に腕を持つ女がソファーで足を組み、こちらを見て微笑みを浮かべている。


「あの……どちら様でしょうか?」

「私はレミアルナ、貴方に試練を課した神の同僚よ」

「試練を課した……事務員さんの?」


「ウフフッ、事務員……貴方、彼の事をそう呼んでるの?」

「はぁ、名前とかは聞いていないので……それで何の用ですか?」

「さっき貴方が倒したドラゴン、ちょっと強くなり過ぎちゃって……あの子達だけじゃ絶対勝てなかったのよ。それで手伝ってもらったの」


 とても嬉しそうにそう話し、レミアルナは手足の金の輪をシャランと鳴らした。

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