第21話 悠の介在した世界

 強くなり過ぎたから手伝ってもらった。


 そう言いながら左側の腕の一本、その掌を持ち上げ青い肌の神レミアルナは微笑んだ。


「強くなり過ぎた……? あの…神様…なんですよね?」

「そうよ」

「だったらこう、神の力とかで弱くすれば……」


「それがねぇ、私達は星を創り出して方向性は決めれるけど過干渉は禁止されてるの」

「禁止……神様なのに?」

「そう、神様なのに……取り敢えず座って、色々教えてあげる」


 そう言うとレミアルナは彼女の対面、テーブルを挟んだ先にあるソファーを指差した。

 同じ神様でも事務員の所のパイプ椅子とは違い座り心地の良さそうな椅子だった。


「ふぁぁ……」


 腰かけると想像した以上に柔らかく、まるで包み込まれる様な感触だった。

 意図せず声が出てしまう。


「フフッ、可愛い子ね」


 そう言って笑うレミアルナにゆうは慌てて姿勢を正し表情を引き締めた。

 相手は神様だ、下手な事をすれば天罰を喰らうかも……。


 そう言えば事務員には随分失礼な態度を取ってしまった。

 ……いや、アレは彼が余り庶民的な姿をしていたから……。


「ウフフ、貴方面白いわねぇ……安心なさい。ここにはお礼も兼ねて呼んだんだから、天罰なんて無いわよ。そもそもそんな事出来ないしね」


「それも過干渉禁止ってやつですか?」

「そう。私達の目的は星の創造者を作り出す事。ただ創造者は文明が高度に発達して、知的生命体があるレベルに達しないと生まれないの」


「はぁ……」


 星の創造者とか言われても悠には余りピンと来なかった。

 彼が今まで触れた物には余り無い要素だったからだ。


「……そうね。貴方の世界にも世界を作った神話とかあるでしょう?」


 レミアルナは苦笑すると悠にも分かる様に例をあげた。


「えっと、確かキリスト教とかでは神様が七日で世界を作ったとかだった様な……」

「そうそう。まぁ私達は恒星とその周囲を巡る星の配置とかをしてるんだけど」

「えっ、じゃあ太陽を造ったのは……」


「貴方が事務員って呼んでる男よ」

「へぇ……あの人、そんなに偉い人だったんですねぇ」


 悠は感心した様に呟いた。


「偉い……って訳でもないわ。私達もお仕事としてやってるだけだし……それでね。創造者は自然発生じゃ無きゃ駄目って規定があってね」

「自然発生……ですか」

「ええ、じゃないとオリジナリティが出ないんですって」


「オリジナリティ……それにしてはドラゴンとか僕も知っている物が……」

「ああ、アレは貴方の世界の物を参考にして星の方向性を決めたから…そういう事しないと飽きるのよ……コホン、ただねぇ……ちょっとコレを見てもらえる?」


 レミアルナは悠の前に映像を写し出した。

 空中に浮いたウィンドウはスマホのARやヘッドマウントディスプレイを使ったVRのようだった。

 映像には先ほど悠が戦ったドラゴンが左右二つに分割された画面に映し出されている。


「たまに星の未来を左右するターニングポイントみたいな物が発生するの」


 分割された画面は同様の物に悠には思えた。


「ちょっと早送りするわね。貴方から見て右が貴方がドラゴンを倒した世界、左は貴方が介在しなかった世界よ」


 そう言いながらレミアルナは指を右に動かした。

 画面が目まぐるしく変化しやがて表示された映像は同じ世界とは思えない物だった。


「ドラゴンを倒した彼らはその後も様々な土地で活躍する事になるの。その行動は伝説として残り人々の生き方の根底に根付いていく」

「リーファラン達があそこで死んでいたら、世界はこうなっていた……?」


 レミアルナは生徒が正解を出した時の教師の様にニッコリと微笑んだ。

 画面に映し出されたドラゴンに負けた世界は、荒廃し人が富と土地を奪い合う物だった。

 方や彼らが生き残った世界は美しく整備され人々の心も穏やかなようだった。


「こんなに変わるんですか……」

「ええ、ここまで荒廃すると文明が更なる高みに上る事はまずないわ。創造者、新たな神として認定される為には精神的な進化も必須だから……」


「それじゃあ、僕が今まで戦ってきた世界も……?」

「そう。アレは貴方の世界の神、ダバオギトが創って凍結してた星よ」

「でも僕、そこまで大きな事をした覚えが……」


 悠がこれまでしてきた事。

 そのどれもが、歴史を変える程の事とは思えなかった。


「貴方、バタフライ効果って知ってる? 確か貴方の世界にもそんな考え方があった様に思うのだけど」

「バタフライ……蝶々ですか?」

「ええ、小さな出来事が繋がりを経て大きな変化をもたらす。蝶の羽ばたきが別の土地で雨を降らせるみたいな話だったかしら」


「……僕がやった事が巡り巡って新たな神を生む?」

「簡潔に言えばそうよ。宇宙は広くて創造者はまだまだ足りないの。でもその段階まで到達できるのは知的生命体でも一握り」

「事務員さんは世界の問題点を僕に解決させてる?」


 青い肌の神は満足そうに頷いた。


「私達が直接関与する事は禁止されてるの。だから人である貴方の様な存在を送りこんだ……今までは早い段階で心が折れてしまう人が殆どだったみたいね」


 悠は最初の戦場を思い出した。

 確かにアレを無傷で切り抜けるのはキツイだろう。

 悠もゲームの経験と、諦めれば獣にされるという事が無ければ止めていたかも知れない。

 しかもそれが連続する。


 悠はゲームを攻略する感覚で楽しかったが、状況の過酷さに諦める者も多い筈だ。

 そもそもシチュエーションが違いすぎる。


「貴方が介在した世界は私達にとっていい方向へ向かってる。ダバオギトはホクホクの筈よ」

「あんな本じゃなくて口で説明してほしかったです」

「ああ、アレ。だって噛み砕いて説明したらやってもらえないじゃない」


 だから甲とか乙とかゲームのオンライン契約みたいな感じで書かれてたのか……。


「……じゃあ、最初の時に悲しそうな顔して送り出したのは……?」

「多分、貴方に恨みを買いたくなかったからじゃない?」

「うぅ、アイツ……」

「怒らないであげて、彼も上からせっつかれて仕方なかったのよ……貴方には関係ない事だけど……」


 レミアルナは申し訳なさそうに瞳を伏せた。


「えっ、あの、貴女が謝ることじゃ……」

「……貴方、優しい子ね」


 レミアルナは顔を上げると悠に向かって微笑んだ。

 無数の手を持つ異形の姿だがその微笑みは優しく美しく、女性に耐性のない悠の顔は一瞬で上気した。


「そっ、そうですか?……えへへ」

「……貴方、すごく単純ね」

「……そう……ですか…?」


「でも、それが貴方が無理な状況を切り開いた強みかもね。で、解決を続ける気はある?」

「……ここで止めたら僕は獣に生まれ変わるんですよね?」

「結構手伝ってもらったから、獣という事は無いと思うけど……」


 異形の神の言葉で悠はこれまでの事を考えた。

 ほんの僅かな時間だったが様々な人に出会った。

 自分が関係した事で彼らの様な人々の未来が変わるなら……。


「続けます。だって平和で穏やかな方が楽しそうですから……」

「そう……じゃあ本題に入るわ。貴方に一つ力をあげる。どんな力が欲しいか言ってちょうだい」

「……力」

「ええ。でも状況を激変させる様な強い物は上げられない。よく考えてね」


 悠は黙り込み腕組みをして暫し考えた後、口を開いた。

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