第19話 投げる!

 エルフから借り受けた水晶を使い、宮殿に転がっている武器を片っ端から確認していく。

 表示された文字はまるで読めなかったが、走り回り確認していく中で表示の法則性は分かって来た。

 恐らくだが水晶の右上に出て来る物が強さを現している気がする。

 他は色々変わってもその部分は右端の文字が増減するだけだからだ。


 ゆうにとって幸いな事に今回の体は素早さと身のこなしは今までで一番高く、ドラゴンのブレスは一撃受ければ即死だが予備動作を見れば躱すのはそれ程難しく無かった。


 悠は見つけた武器で有望そうな物を前線で戦うイケメンと侍に投げて送った。

 その際、気付いた事がある。

 それはこの体は異常に肩が良いという事だ。

 どんなに離れていても有名な野球選手の様に確実に武器を二人の足元に投げ込めた。


「……投擲……もしかして投げるが使える?」


『投げる』某RPGにおいて強力な切り札として存在したコマンドだ。

 難点は投げると手元からアイテムが消える事だったが、ここにはドラゴンが倒したであろう探索者達の武器が山ほど転がっている。


「シン!! 武器をくれるのはいいがどれが強いのか分からんぞ!!」


 イケメンの言葉で悠は一旦武器調達を止め、彼の元に駆け付けた。足元に転がる武器から一番文字が多かった物を拾い手渡す。


「コレを使ってみて! 属性とかは分からないからそこは気を付けて!」

「了解だ!」


 続けて侍に駆け寄りつつ転がっていた武器を拾いドラゴンに投げつける。

 悠の手から放たれた剣は回転しながらドラゴンの胸を浅く切り裂いた。


『グッ、我が鱗に傷をつけるとは』


 ドラゴンの喉元が膨らみ皮膚を透かして光が漏れる。


「ブレスだ!! 散れ!!」

「言われなくても」


 予備動作を確認し前線部隊は後ろに下がる。

 その直後、薙ぎ払う様にブレスが武器もろとも地面を焼いた。


「あっ!?」


 高温のブレスに焼かれ、投げ込んだ武器の一部が残骸に変わる。

 有望と思われる物を投げ込んだのは悪手だったようだ。

 しかし、それによってブレスにも耐えうる武器がある事も判明した。

 アレを試金石にすればブレスに有効な防具も見つけられるかも知れない。


 まぁ、鎧を着こむのは流石に無理だろうから、出来ても盾ぐらいだろうが……。


 悠の脳裏に勝利への道筋が浮かぶ。

 まずはドラゴンに一番有効な武器防具、取り敢えず手に持てる物をパーティ分確保する。

 それをパーティに配った後はフィールドを駆け回りながら目に付く武器を投げつける。


「うん、多分これしか無いな」


 其処からは幾度も死に戻りを繰り返し、宮殿内にある武器防具の調査を行った。

 やっていく内、強さが大きくてもドラゴンに効果の無い武器防具も徐々に判明してきた。

 それを除外しつつ調査を続ける事、数十回。


 ようやく納得できる装備を全員分調べる事が出来た。

 その過程で呪いの武器も投げるだけならほぼ問題無い事も判明した。


「よし、準備完了だ!」

「……一体なんの準備よ? ……それより、私達は牽制するわよ」

「いや、僕はフィールドに転がってる武器を回収する。皆に渡すからそれを使って戦うんだ」


「転がってる武器って……そんなのどれが使えるか分かんないじゃない」

「僕を信じてくれ」

「さっき会ったばかりのアナタを信じろって言われても……」


 エルフのリーファランは胡散臭げに悠を見返した。

 だが悠の瞳が微動だにせず自分を見つめているのに気付くと、少し口を尖らして答えた。


「よく分かんないけど、アナタが調達した物を使えばいいのね?」

「うん、皆にも伝えといて、それじゃあ」


 リーファランにそれだけ言うと、悠はドラゴンに向かって駆けだした。

 敵も危険な武器を恐れたのか有用な物は奴の背後にあるのだ。


『グヌ? まずは貴様から焼かれたいか?』


 瞳を邪悪に歪めると竜の喉元が膨らみを見せる。


「おいシン!? お前は牽制だ!!」


 イケメンのパラディン、レアンの言葉を無視し足元の槍を拾いざま投げる。

 槍は一直線に飛びドラゴンの右目を貫いた。


『ギャアアアアアア!!!! おのれぇ下等な人間がぁ!!!!』

「何だと!?」


 レアンが驚きの声を上げる。

 だがこの青い竜は回復力が高く、目を潰しても短時間で再生する。

 先程の槍は牽制以上の意味は持たない。

 倒すには回復を上回る速度で致命傷を与えるしかないのだ。


「まずは……」


 悠は敵の右目側、視界を奪った方に回り込みながら背後の金貨に埋もれた刀を目指した。

 駆けながら鞘を掴み即座にジャンプして侍、秋水に投げ渡す。


「その刀を使うんだ!!!」


 刀は孤を描き、声に反応して思わず伸ばした秋水の左手に吸い込まれる様に収まった。


「これは……」

“シンは転がってる武器を集めるみたい……駄目元で使ってみて”

「彼奴、信用が置けるのか……?」

“それは分からないけど……”


 リーファランが精霊魔法を使い秋水の耳元に声を届けた。

 彼女の言葉を聞き、秋水は半信半疑ながらも刀を抜き放つ。


「おお……なんと見事な……」


 緩やかに波打つ刃紋が緩やかなカーブを描く刀身に浮かび上がっている。


「彼奴、鑑定眼でも持っておるのか……まぁよい、この刀なら……」


 秋水は一旦刃を納めた刀を腰に据えると怒りのままに悠を追い、こちらに背を向けているドラゴンに向け間合いを詰めた。

 大地を蹴り地面の上を滑る様に駆け抜け、うねる尻尾の根元に刀を抜き打つ。


 鞘走りした刃は大木の様な尾を半分近く断ち切った。


『グォオオオ!!! おのれぇおのれぇ!!!』

「なんという切れ味……これなら……」

「秋水ぼーっとしてちゃ駄目だよぉ!!!」

「ぬっ!?」


 悠の声に目を上げれば竜は忌々し気に秋水を睨み、半分近く斬られたはずの尾を振り上げた。

 見れば傷は煙を噴き上げ再生を初めている。


「クッ、化け物め!!」


 秋水は咄嗟に竜から距離を取った。

 叩き付けられた尾は金貨を巻き上げ、周囲に衝撃波を放つ。

 その衝撃波は巻き上げた金貨を弾き飛ばし秋水を飲み込んだ。


「秋水!?」


 レアンの声が宮殿に響く。

 しかし金貨の暴風が治まった後には無傷の秋水が立っていた。


「秋水……無事……なのか?」

「……結界……この刀の力か……シン、彼奴何者だ……?」


 憎々し気に牙を剥く竜。呆然とするパーティの面々。

 そのパーティの視線の先を黒装束の忍びは次の武器に向かって駆け抜けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る