第18話 最良の未来を
あれから既に五回ドラゴンと
ゲーム的な感覚で言えば、このパーティは明らかにレベルが足りない。
イケメン(恐らくパラディン)の剣はドラゴンの鱗に弾かれ、侍の刀は傷を負わせるもかすり傷。
魔法使いの魔法は目くらましの役割しか果たしておらず、僧侶の防御魔法はほぼ紙。
エルフの弓も狙いは正確だが完全な火力不足だ。
そして悠の手裏剣も硬い鱗に阻まれ役に立っているとは言えなかった。
「コレって本来なら退却してレベル上げのパティーンだよね……」
柱の裏でそう呟きながら悠は周囲を見回した。
ドラゴンのねぐらである宮殿には財宝と一緒に無数の武器防具が転がっていた。
恐らく迷い込んだ別の冒険者の装備だろう。
……退却が不可能なら、現状手に出来る装備で戦力の増強を図るしかない。
悠はブレスの合間を縫って、別の柱の裏でドラゴンを狙撃していたエルフに駆け寄った。
「シン何してるの!? 固まったら一気に焼かれるでしょ!?」
「教えて欲しい」
「何よ!?」
「装備って鑑定しないと使えない?」
「中には危ないのもあるし基本的にはそうだけど? ってコレって常識でしょう!?」
「その鑑定ってどうするの?」
エルフは怪訝そうに質問を重ねる悠を見た。
悠が訪ねている事柄は彼らにとっては常識だ、今更聞く事では無いから当然だろう。
「アナタ……大丈夫?」
「いいから教えて欲しい、これは道を切り開く為にはとても…とても大事な事なんだ」
悠は大事な事を特に強く念を押して言った。
「はぁ……おかしな人だとは思ってたけど……基本は店に持ち込みよ。うちはコレを使ってる」
エルフは腰のポーチからゴルフボール程の大きさの水晶球を取り出した。
「鑑定の水晶……まさかコレも知らないなんて事は……?」
「知らない。でソレってどう使うの?」
「……一人でダンジョン潜ってるなんて変だとは思ったけど……」
エルフの目は怪訝を通り越し狂人を見る物に変わっていた。
どうもこの忍者はソロプレーヤーだったようだ。
エルフ達とは恐らくこのダンジョン?で知り合ったのだろう。
「ずっと一人でやってきたんでね、そういう事には疎いんだ」
「……やっぱり忍者って変わってるわね……まさかアナタ、噂みたいに全裸で戦ったりしないわよね?」
「全裸? そうした方が強いの?」
「よく知らないけど忍者はその方が強いっていう出所不明の噂があるの……意味が分からないけど……」
「そうなんだ……それより水晶の使い方を教えて欲しい」
「……翳すだけよ。水晶の中に呪いの有無と性能が表示されるわ」
そう言うとエルフは悠に水晶を差し出した。
水晶を翳し、試しにエルフを映し出してみる。
「ちょ、ちょっと!?」
何故かエルフは慌てていたが、悠はそれを無視して彼女の装備を映してみた。
彼女の持った弓や身に着けている装備がどのような物か詳細が表示されている。
表示されてはいるが、悠にはそれが全く読めなかった。
「……ここに来て言語の壁が……ねぇ、コレって呪いが掛かっている場合はどうなるの?」
「呪いがあれば文字が赤に変わるわ……ていうか私を見ないでよ……」
顔を赤らめながらエルフは恥ずかしそうに体を縮める。
「なんで?」
意味が分からず悠はエルフの顔を水晶に映した。
「ブバッ!?」
映したと同時にエルフは悠の顔を思いっきりひっぱたいた。
「かっ、鑑定は人にも適応されるの!! 見たでしょう!? 主に体重とか体重とか体重とか!!」
やはりこの世界でも女性は体重を気にするみたいだ。
悠が見る限りエルフはスレンダーで気にする必要は無いように思うが……。
「うぅ、ごめんなさい……それでなんだけど、これ借りていいかな?」
「別いいけど……何する気よ?」
「転がってる武器を漁る、強力な物があればアイツを倒せるかも知れない」
「戦闘中に宝探し? この状況で? ……アナタどうかしてるんじゃないの?」
エルフの目は狂人さえ通り越し、もはや理解不能な異物を見る物に変わっていた。
「まぁ、普通のRPGじゃ無理だろうね……でも僕はそうやって戦う戦場を知ってる」
悠の脳裏にかつての激闘の記憶が蘇る。
彼は攻略サイトや解説動画に頼らず、手探りで道を探す事にこだわっていた。
クリア後、確認したらもっと楽な道があった事も一度や二度では無い。
しかしその戦いの記憶は悠に諦めなければ、必ず道は開けるという事を教えてくれた。
勿論それはゲーム上の事であって現実では無い。
だが今は死に戻りする事で最良の未来を選べる。
最適解を選び続ければ……。
「……好きになさい。元々アナタは数に入っていなかった訳だし」
エルフは少し呆れていたが、真っすぐに自分を見る悠に肩を竦めてそう言ってくれた。
「ありがとう、きっと道を開いてみせるよ」
「そう?期待しないで待ってるわ。まぁ頑張って……」
少し苦笑して言うと、彼女は弓を構えドラゴンに視線を移した。
悠はそんな彼女に笑みを返すと、水晶を片手に手近に転がっている武器に向かって駆けだした。
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