第17話 憧れた世界
ガリルを打倒した
それに応え右手を突き上げると、歓声は更に大きくなった。
生前は受けた事の無い称賛に悠の心は踊り跳ねた。
「くぅぅ。癖になりそうだ……」
しかし、今回もその余韻を味わう暇も無く、視界は次の場面に切り替わった。
彼の前には小山程の大きさの青い竜がこちらを金の瞳で見下ろしていた。
「……無い、これは無い」
「何が無いの!? もしかしてポーション買い忘れた!?」
彼の隣にいた弓を構えた金髪の少女が眉根を寄せて問い質す。
少女の耳は髪から突き出す程長く、先端は尖っていた。
エルフだ!という興奮は内に隠し悠は動揺した風を装い答える。
「ごめん、驚き過ぎて少し気が動転したみたいだ」
「無理ないわ、転移先がいきなりドラゴンじゃね。とにかく私達は牽制よ、ブレスにやられ無いように散りましょ」
そう言うと少女は矢をつがえ悠から離れて行った。
見廻せば少女以外にも四人、悠の周囲でそれぞれ武器を構え竜を見上げている。
ここは所謂ドラゴンの住処というやつの様だ。
宮殿の様な大理石の柱が並ぶ中央に、金貨や宝石の上に座ったドラゴンがいる。
悠は取り敢えず手近な柱の裏に身を隠すと、今回の体を確認した。
黒い動きやすい服に黒い皮鎧、腿のポーチには投げナイフが並んでいる。
その一本を取り出し呟く。
「クナイ……コレってやっぱり忍者……だよねぇ……」
悠も遊んだ事のあるRPGにもあった職業だ。
忍者はエリート職ではあったが、主役という感じではない筈。
攻撃力や防御力は戦士等と比べると幾分装備の面で劣ったような……。
まぁそれもゲームによるだろうが、先ほどの少女に牽制を指示されたという事はやはり後衛キャラなのだろう。
「……待てよ、ドラゴンって確か喋れる奴もいたよな」
ゲームの世界であれば嬉々として倒しただろうが、現実的に考えてあんな怪獣、剣や弓で倒せるとは思えない。
それこそロケットランチャーぐらい無いと無理なんじゃなかろうか。
そう考えた悠は物は試しと、ドラゴンの前に駆け出した。
「おいシン、前に出るな!?」
白い鎧を着た金髪のイケメンが悠の行動に目を剥いている。
悠はそんなイケメンの言葉を無視してドラゴンに駆け寄ると声を張り上げた。
「あのッ!! すぐ出て行くんで今回は見逃してもらえないですかッ!?」
『我が寝所に土足で入り込んだ者を許す訳があるまい!?』
「そこを何とか! これして欲しいとかあったら対応しますから!」
ドラゴンは悠の提案に唇を歪め牙を剥いた。
その迫力に後退りそうになるが、奥歯を噛みしめなんとか耐える。
『面白い事を言う人間だ。では貴様の仲間を全て排除しろ、そうすれば貴様だけは見逃してやる』
悠は振り返り仲間達を見回した。
イケメン、エルフの他、侍の男、僧侶の青年、魔法使いの女がこちらを見て武器を構える。
「シン、お前裏切る気か!?」
「えぇ……全然信用ないじゃん」
『どうした人間? やはり仲間は殺せんか?』
「あのー、他のじゃ駄目ですかねぇ……?」
問い返したドラゴンの金の瞳が細められる。
その直後、開かれた口から閃光が迸り悠の体は一瞬で炭化した。
瞬時に視界は冒頭に立ち返る。
「クソッ、話せるけど決裂するタイプか!!」
「えっ!? いきなり何言ってんの!?」
「なんでもないよ。それより牽制すればいいんだね?」
「う、うん……」
悠はエルフに答えると先ほど同様、柱の裏に身を隠した。
あのドラゴンは倒すしか無さそうだ。
そう言えば、そもそもターゲットをどうにかしないと場面は進まないんだった。
そんな事を悠が考えていると閃光が柱の横を通り抜ける。
一気に室温が上がり体中から汗が噴き出す。
柱の影から覗き込むとイケメンと侍がドラゴンに斬りかかっていた。
彼らは柱に隠れてはいなかった。
憶測だが恐らく火炎を防御する魔法とかがあるのではないだろうか。
魔法か……これは興奮するな!!
竜の大きさにげんなりした悠だったが、魔法の存在を感じ取るとなんだか気分が高揚してきた。
かつて憧れた世界に胸を熱くしながら、ドラゴンの目を狙ってクナイを投擲した。
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