第15話 完璧な道筋

 ガリルに唐竹割りにされたゆうは騎士の槍を交わしながら対策を考える。


 結構離れていたからいけると思ったのだが……。

 まぁよくよく考えれば騎兵から歩兵が逃げ切るのは無理だろう。

 作戦を思いついた事で少し舞い上がっていたようだ。


 やはり成功させるには馬を手に入れるしか無さそうだ。


「やるか……」


 悠は目の前にいる騎士に目をやった。


「我が槍を交わすとは雑兵ながら見事なり!!」

「ふぅ、君には悪いけどその馬頂くよ」


 小さく呟き騎士に向かってクイクイっと指を曲げる。


「ぞっ、雑兵如きがぁ!!」


 騎士は激高し愛馬タングロワを走らせた。

 騎士の攻撃は突進力を生かしたすくい上げる様な斬撃だ。


 タイミングを見計らい、悠は槍の柄に足を乗せ跳躍する。

 そのまま手にした槍で騎士の兜を貫いた。


「ガフッ……」


 滑り落ちた騎士に変わり、悠は鞍に座って手綱を持った。

 タングロワは主で無い者が騎乗したと気付き激しく暴れた。


「うわっ!? 頼む落ち着いてくれ!」


 手綱を握り振り落とされない様バランスを取りながら、悠は必死で馬にしがみ付く。


「どうどう……落ち着け……いい子だ」


 見れば仲間の兵士がタングロワの頬革を握り、首筋を叩いて宥めてくれていた。


「あ、ありがとう」

「いいって事よ。しかしアンタ凄いな、あんなの初めてみたぜ」

「ハハッ、まぐれだよ」


 無精ひげの生えた金髪のその兵士に苦笑しながら言う。


「まぐれでも大したもんだ。で、アンタ馬には乗れんのか?」

「ううん。どうやればいいかさっぱり」

「んじゃ、コイツ譲ってくれよ。金は払うからさ」


 作戦には馬が必要だ。

 しかし、扱い方も分からないではガリルから逃げ切る事は出来ないだろう。


「いいよ。ただお金の代わりに僕に馬の操り方を教えて欲しい」

「いいぜ、戦いが終わって生きてたらいくらでも……」


 男の提案に悠は首を振った。


「今教えて欲しい」

「今ってお前……戦争やってんだぞ?」

「頼むよ」


「分かったよ。まったくイカれた奴だ……俺はリック、お前は?」

「悠」

「よっしゃ、じゃあユウ。ちょっと前に寄れ」


 悠が座る位置を前に詰めると、リックは鐙に足を掛け後ろに座った。


「扱いっつってもそれ程難しくはねぇ。手綱を引いた方向に馬は頭を向ける、腹を蹴れば走る、同時に引けば止まる。基本はこれだけだ。後は馬に合わせてバランスを取ってやれ」

「蹴ればいいんだね」

「優しくだぞ、蹴るのはあくまで合図だからな。あと手綱もグイグイ引っ張るな」

「分かった」


 悠はリックの言葉通りタングロワの腹を優しく蹴った。

 合図を受けてタングロワはヒョコヒョコと歩き出す。


「結構…揺れ…るね」

「慣れないうちに喋ると舌を噛むぞ」

「……」

「よし、んじゃ取り敢えず安全なトコ行こうぜ」


 頷きを返し、砦を指差す。


「砦だな」


 そう言うとリックは悠から手綱を受け取ると、タングロワを砦に向かわせた。

 砦に向かいながらリックは悠に馬についてレクチャーを続けた。

 どうもリックの家は牧場らしく、放牧している牛を集める為には馬に乗れないと仕事にならないそうだ。


「ずっと牛追いかけてくたばるのが嫌でよぉ、でもまぁ久しぶりに馬に乗るとやっぱ気分がいいぜ……」

「そう……なんだ……」


 そう言った悠の言葉に返答は無かった。

 振り返るとリックの目から矢が突き出ている。


「リック?」


 リックは悠に答える事無く鞍からずり落ち地面に落ちた。


「リック……ありがとう……君はきっと助けるよ」


 馬の乗り方を教えてくれたリック。

 彼に教わった事を基礎にまずはタングロワを乗りこなす、それが出来たら次だ。

 恐らくガリルを倒さない限りループは終わらない。

 なら望む結果を掴むまで死に続ければいい。


「完璧な道筋を……」


 悠の頭はなるべく味方が死なず、最短でガリルを倒せるルートを模索し始めていた。

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