第14話 鉄巨人

 仲間と思しき兵士と共闘しながらゆうは終了条件を探っていた。

 先程の騎士は馬上だったとはいえ、一対一だったので何とか勝てた。

 だが銃の様な一撃で相手を倒せる術が無い今回、数で押されれば一瞬で終わるだろう。


「誰か一人、敵のキーマンを倒すとかならいいんだけど……」


 戦場全体の敵兵を倒すなんて条件は流石に無い筈だ。

 この体は少し鍛えられたごく普通の人間で、超人的な力は持っていない。


 そんな事を思いつつ戦場を見回す。

 ここは平原に作られた砦の近く、装備の感じからすると悠は砦の兵士のようだ。


 さらに視線を巡らすと、途中でおかしな光景が目に飛び込んだ。

 鎧を着た兵士たちが弾かれた様に宙を舞っている。


「何だアレ? もしかして爆弾……?」


 しかし爆弾に付き物の音や煙は発生していない。


「よく分からないけど、ターゲットっぽいな」


 悠は戦場で鹵獲した盾を構えつつ、そのおかしな光景へ足を向けた。

 光景の中心では味方の騎士とソレが槍を交えていた。

 周囲には敵味方入り混じって戦っている者達を中心に丸く空白地が出来ていた。


「えっ何アレ? 人間?」

「お前知らねぇのか?あれがガリル、西の鉄巨人だ」

「鉄巨人……人じゃ無いの?」


「一応人間らしいぜ。ついてねぇよな、あんなのが出てきたら勝ち目ねぇよ。今回は適当に戦って終わりだな」

「適当? いいのそれで?」

「あ? お前も傭兵だろ? 俺達傭兵は生き残らねぇと商売上がったり、だろ?」


 悠に声を掛けた男はそう言うと、小競り合いをしていた集団に駆け出していった。

 悠は改めてガリルという巨漢の騎士を観察した。


 身長は恐らく二メートルを超えるだろう。

 操っている馬の大きさも加味され、対峙している騎士がまるで子供に見えた。

 分厚い鎧を着こみ、長大な斧槍ふそうを自在に操っている。

 敵を威圧する為か鎧の造形は禍々しく、角の付いた兜の顔はまるで悪魔のようだった。


 悠は周りを見回し有効な武器が落ちていないか探った。


 多分、クリアー条件はガリルを倒す事だろう。

 しかし現在、悠が持っているのはロングスピアと呼ばれる槍と腰の剣、それに弩だけだ。

 そのどれもがガリルをこの体で倒す為には力不足と思われた。


 何か武器を悠がキョロキョロと辺りを見ていると、ワッ!と歓声が上がる。

 視線をガリルに戻せば、巨漢の悪魔は味方の騎士を貫いた斧槍を天高く掲げていた。


「何か…何か有効な手段を……」


 砦を見れば城壁の上に巨大なバリスタが設置されている。


「おーい!!」

「何だぁ!?」

「バリスタでガリルをやってくれ!!」


「ああ!? 無理に決まってるだろう!! 避けられちまうよ!!」

「じゃあ動きを止めればいいんだね!?」

「それが出来りゃ苦労しねぇよ!!」


 見れば騎士を屠ったガリルは、戦場を駆けながら味方を蹂躙していた。

 足を止めるには馬から引きずり下ろすしかないだろう。


 再度、周囲を見回した。

 ガリルの所為で押されてはいるが、砦近くは流石に味方の数が勝っている。

 そうはいっても無傷とは行かず様々な武器や道具が死体と共に転がっていたが……。

 その中から悠は頑丈なロープを見つけた。


「これなら……後は……」


 準備を整えた悠は兵士達に声を掛け作戦を説明した。


「そりゃ、近づいてくれりゃやってもいいけど……どうやって誘き寄せんだよ?」

「簡単だ。僕が囮になるのさ。おーい!! さっきの件よろしく!!」

「囮ってお前……」


 声を掛けた兵士が呆れ気味に見るのを他所に、悠は城壁の上に声を掛ける。

 バリスタを打っていた先程の兵士が片手を上げ応えた。

 それを確認すると悠はガリルに向かい駆け出した。


「あっ、おい!? ……おっ死ぬのがオチだぜ……」


 その後、ガリルに近づき太矢を射かけた悠は逃走後追いつかれ、兵士の予想通り斧槍によって真っ二つに切り裂かれた。

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