第13話 混沌の戦場
橋を超えロドリーの縄張りに着いた所でジーンは車を止めた。
「ありがとよ、先生。ボスが助かったのはアンタのお蔭だ」
「いいさ、それより僕等に新しい病院を用意してよね」
「分かってる」
ジーンと話しているとロドリーがうわ言を呟く。
「うぅ……ジーン、俺はいい……テメェは逃げろ……ジーン……テメェは……」
「よく分からないけど仲間思いの人みたいだね」
「へッ、昔気質の頑固ジジイさ……」
そう言ったジーンは笑っていた。
「助けて良かったですね、先生」
「そうだね……」
笑みを浮かべた悠にマリーも笑みを浮かべ応える。
その姿が薄れ視界が切り替わった。
馬に乗った全身甲冑の騎士が槍を片手にこちらに向かって来る。
「次は中世か……ホント忙しいねぇ……」
場所は中世の戦場、装備から考えて自分は一兵士の様だ。
馬には乗っておらず武器は槍と腰の剣。
防具も簡素な物しか身に着けていない。
現在は乱戦中の様で敵味方入り乱れ戦っている。
状況認識が完了した所で先ほどの騎士が槍を小脇に抱え突進を始める。
悠はその突進攻撃を姿勢を低くして掻い潜る様に躱した。
周囲にいた避け損ねた兵の体がはね飛ばされる。
土埃と血の臭いが混じる中、悠の横を栗毛の馬が駆け抜けた。
「ふぅ……この体は中の上ぐらいかな……上手く立ち回らないとヤバそうだ」
「我が槍を交わすとは雑兵ながら見事なり!!」
「……うわっ、いきなり面倒臭そうな奴が」
騎士は悠に狙いを定めた様で馬首をこちらに向けている。
悠の側にいた仲間と思しき兵士達は、彼から逃げる様に周囲に散った。
確かに巻き添えは御免だろうがそれって酷くないか。
「一対一だ!! 尋常に勝負せよ!!」
「なんか正々堂々みたいな感じで言ってるけど、馬に乗ってる時点でハンデあり過ぎだからね……」
とにかく、あの騎士をどうにかしないと先には進めそうにない。
「仕方ない、やるか」
悠は槍を構え馬の正面に立った。
「その意気や良し!! では参る!!」
騎士は馬の腹を蹴り悠に向かって駆け出した。
持った槍が真っすぐ悠を捉えている。
問題はタイミングだ。
悠は一旦、向かって左側にステップを踏んだ。
それに合わせ騎士は馬の軌道を修正する。
再度ステップを踏み、馬の軌道を変えた所でもう一度右に飛び地面に槍を鋭角に突き立てる。
馬は目前に迫り軌道修正はもう無理だろう。
それを確認した悠は更に右に飛び地面を転がった。
槍は目算通り馬の胸を捉え急ブレーキを掛けさせた。
急な減速に対応出来ず騎士は前に投げ出され、加速した勢いのまま大地に叩き付けられる。
「うわっ、痛そう……死んだ?」
「ググ……己ぇ……我が愛馬、タングロワをよくも……」
ふらつきながら騎士は立ち上がる。
ピカピカだった甲冑は土で汚れ、所々凹んでいた。
「タフだなぁ」
「あの世に送る前に名を聞いておこうか?」
「名前……
「カワグチュウ……変わった名だ……まあよい、ではカワグチュウ、我が名はグガッ!?」
剣を抜き、構えをとった騎士を無数の太矢が貫いた。
「やった!! コイツは多分結構な上級騎士だぜ!!」
「テメェそいつを仕留めたのは俺の矢だぞ!?」
「何言ってんだ!? ドタマに突き刺さってんのは俺のボルトだろうが!!」
クロスボウを手にした男達は、口々に仕留めたのは自分だと主張し始めた。
そんな男達を他所に戦いは続いている。
「はぁ、戦場はいつもカオスだなぁ……名前も知らない騎士の人、タングロワ、どうか安らかに眠って下さい」
片手で祈りを上げると、悠は手近に転がっていた誰の物とも知れない槍を手に戦場に駆け出した。
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