第12話 裏切り者と機関銃

 夜の街を黒いSUVが疾走していた。

 その後ろを数台の車が追い掛けている。


「先生ッ!! マズくないですかコレッ!?」

「マリー、君はおじさんを押さえて伏せているんだ!」


 マリーにそう言うとゆうはギャングから奪った銃を手にルーフから顔を出した。

 ショットガンで追走してくる車のタイヤを撃ち抜く。

 先頭を走っていた二台がハンドルを取られ後続車を巻き込み派手な音を立てた。


「うん、やっぱりショットガンは便利だね」


 ルーフから顔を引っ込め座席に座ると傷の男が悠に話しかけた。


「アンタ、何者なんだ……ただの闇医者じゃねぇのか?」

「闇医者だよ、今はね」

「先生……昔の事、教えてくれないのはそういう事だったんですね」


「そういう事って?」

「あの……先生は昔、凄腕の殺し屋それか特殊部隊の人だったんでしょ?」

「アハハッ、マリー、君は想像力が豊かだなぁ」


 そんな事を話している間にも車は街の中心、大きな川に掛かる橋に辿り着く。


「この橋を渡りゃあ、俺達のシマだ」

「そういえば、そもそも何で敵のテリトリーに踏み込んだの?」

「裏切られたんだよ! 今回は手打ちの話合いをする筈だった! それをテッドの奴が……アイツ、絶対ブッ殺してやる……」


 どうやらテッドという男が、多分男だろう。

 とにかくそいつがおじさんと男を裏切ったようだ。


 シマ、つまり縄張りをやるとか言われたのかな……。


 悠がそんな事を考えていると急ブレーキが掛けられる。


「ちょっ!? 乱暴な運転しないで下さいッ!!」

「チッ、テッドだ……」


 橋は車によって塞がれ、ヘッドライトに照らされる形で銃を持った男達が三十人程並んでいた。

 その中心に洒落たスーツを着た中折れ帽の男が立っている。

 男は吸っていた葉巻を道路に捨て、踏み消すとニヤニヤしながら口を開いた。


「ジーン、てめぇも律儀だなぁ。ロドリーなんぞに義理立てしてよぉ」

「クソ野郎が、テメェもボスには世話になったろうが……」


 傷の男ジーンはテッドの言葉に歯軋りした。


「俺が時間を稼ぐ、すまねぇが先生と嬢ちゃんはボスを守ってくれ……これを」


 ジーンは腕時計を外すと悠に差し出す。


「治療費にゃ足りねぇかも知れねぇが……」

「悪いけど、それは受け取れない」

「……」

「一緒に切り抜けるんだ。必ず道はある」

「アンタ……」


 そう道はある筈だ。

 今回は無理でも諦める事をしなければ必ず。


 相手は三十人以上、この状況で殺さないというのは無理そうだ。

 悠はジーンに奪ったハンドガンとマガジンを手渡した。


「僕がテッドをやる。君は混乱した相手をなるべく減らしてくれ」

「フッ、アンタ、ホントに何者だよ」


 ジーンはしかめっ面を崩しニヤッと笑う。


「元は唯の一般人だよ。でも今は主人公だ」

「先生、私はどうすれば……」

「マリーはおじさんを見てて」

「うぅ……死んじゃ嫌ですよ……」

「まかせてよ」


 悠はマリーに笑みを見せると、ギャングから奪った銃を見繕う。


「先生、床下のラゲッジに長物が入ってる。良かったら使ってくれ」

「なんで先に言わないんですか!?」

「そんな暇、無かったじゃねぇか……」


 ジーンに苦情を言うマリーを横目に後部シートを持ち上げラゲッジを探る。


「これは……いいね。何とかなりそうだ」

「ジーン、どうした!? ビビッて動けねぇのか!?」


 痺れを切らしたテッドが声を上げている。

 余り時間はなさそうだ。

 床下の収納にはアサルトライフルが緩衝材に巻かれ納められていた。

 戦場でお世話になった手榴弾も何個か紙袋に入れられている。


「ジーン、作戦変更だ。テッドを殺害後、車を手榴弾で退かして逃走する」

「ライフル一丁と手榴弾だけで、んな事出来んのか?」

「まかせてよ。死ぬ程練習したから」


 バリバリと緩衝材を破り、マガジンをベルトに挟む。


「じゃ、やるよ。ジーン、運転席のドアを開けて」

「……分かった」


 ジーンが運転席のドアを開けるとテッド達の視線がそちらに集中した。

 悠はその瞬間ルーフから顔を出しテッドの頭を打ち抜いた。


「兄貴!?」


 ギャングが怯んだのを見て、ライフルをフルオートにして銃弾をばら撒く。

 その際サブマシンガンやショットガンを持った者は特に優先して排除した。


「クソッ、ヒットマンがいるなんて聞いてねぇぞ!?」

「車を盾にしろ!!」


 ギャング達は悠の攻撃で一旦車の後ろに身を隠した。

 その隙をついて打ち切ったマガジンを素早く交換、ボルトリリースレバーを操作し薬室に弾丸を送り込む。


「オッケー、大体予想通りの動きだ」


 悠は顔を出した者を射殺しながらピンを抜き手榴弾を投げた。

 サイドスローで投げた手榴弾は橋を塞いでいた車の下へ潜り込み爆発。

 フロントを跳ね上げ強引に道を作った。


「ジーン今だ!!」

「おっ、おう!!」


 アクセルが踏み込まれSUVが急加速する。


「大丈夫!! そのまま突っ込め!!」

「分かってるよぉ!!」


 SUVはギャング達をはね飛ばしながら悠が開けた隙間に飛び込んだ。

 SUVの側面がガリガリと嫌な音を立てる。

 悠はルーフからこちらに銃を向けるギャングを次々に排除した。


 彼らには悪いが銃を向けるなら手加減は出来ない。

 悠は追撃を逃れる為、残っていた手榴弾を全て投げた。

 連続して爆発音が響く中、ジーンは愉快そうに笑っていた。


「クハハッ、アンタ、医者やってるより俺達の業界の方があってるんじゃねぇか?」

「どうかな?最近は平穏な暮らしの方がいいと思えてきたよ……」


 遠ざかる車とギャングを見つめならが悠はぼそりと呟いた。

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