第2話 ジャンルが違い過ぎる。
悠の前には再び中国風の服を着たギラついた目の男が立っていた。
男の言う
不意に目を落とし自分の手を見る。
ゴツゴツと節くれ立ちそこから伸びる腕はしなやかな筋肉に覆われている。
この体は鍛え上げられ、かなり性能が良いようだ。
これなら目の前の男を倒す事も不可能ではないかもしれない。
拳法も形という物がある事は悠も何となく知っていた。
それはパターンといえなくも無いだろう。
見極めてやる。
何度殺されようとも……。
悠は覚悟を決めるとぎこちなく構えを取った。
それから何度も目の前の男に殴り殺された。
そもそも拳法等、ゲーム以外で触れた事も無い。
ゲーム以外で……ゲーム……。
其処からはトライアンドエラーの繰り返しだった。
悠は男相手に受け流しと思いついた技の訓練を開始した。
敵の攻撃を受け流し懐に入り技を決める。
最初は反応さえ出来なかったが、昔漫画で読んだ筋肉の動き、予備動作から相手の動きを予測する事を思いつき懐に入る事までは比較的簡単に出来た。
それでも百回以上殺されたが。
問題はその後だ。
技を試そうとしてもほんの少し隙を見せれば、流れを潰されてしまう。
決めるには流れる様に相手に一瞬の隙も与えず行うしかない。
話し合いでの解決も戯れに行ってみたが、男は悠を殺し道場を奪うと心に決めている様で対話に応じようとはしなかった。
千回以上試行錯誤を続けただろうか、ついにその時が訪れる。
男の初撃は
それを右手で受け流しつつ体に回転を加え踏み込みながら躱し、勢いをつけた状態で懐に飛び込みつつ軽く屈む。
この時、力を籠めたいあまり屈み過ぎるのは悪手だ。
隙を生み出す事になり、高い確率で膝を貰う。
受け流しにより男の体が流れ、体勢を立て直す前に技を放つ。
右脇に引き絞った拳を全身のバネを使い顎を突き上げる様に放つ。
「昇〇拳!!!」
気合を込める為、その技、上昇中は完全無敵(ゲーム内)である主役級キャラの技名を叫ぶ。
突き上げた拳は顎を砕き、突き出した膝は鳩尾を抉った。
「ぐへぇ!?」
相手の男はカウンター気味に決まった事もあり、ゲームのワンシーンの様に豪快に吹き飛んだ。
周囲の弟子たちと同様、地面に倒れた男は、ヒューヒューと苦しそうに喘ぎながら首を持ち上げ悠に尋ねる。
「……なんふぁ、ふぉのふぁざふぁ?」
顎が砕かれた為か酷く聞取りに難い。
恐らく「何だその技は?」と言っているのだろう。
「僕が知る真の格闘家を目指す漢の技だ!」
「ふぃんのふぁふとうふぁ(真の格闘家)……ふぉれはふぃったふぃ(それは一体)……」
「君が知る必要は無い!」
悠がそう言うと同時に男は気を失い頭を落とした。
「よっしゃぁ!! ……いやー、きつかった! ……いきなり格闘技とか……無いわー。全然ジャンルが違うじゃん」
そう言って悠が首を振っていると、いきなり女の金切り声が響いた。
「何よジャンルって!? 私は貴方が弄んだ女の一ジャンルって事!?」
また場面が切り替わった様だ。
どうやらここは現代、マンションの一室のようだ。
リビングらしきその部屋で茶髪にウェーブのかかった髪の女が、泣いてメイクの崩れた顔でこちらを睨んでいる。
一体どれだけのシチュエーションをこなさなければならないのか。
“ホントに読まなくていいの?”
今更ながらに神様の言葉が思い出される。
確かにちゃんと読んでおくのだった。
本の分厚さから考えるとまだまだ先は長そうだ。
悠が後悔に苛まれていると、女が再び金切り声を上げた。
「聞いてるの!? どうせ私の物にならないなら、貴方を殺して私も死ぬわ!!」
そう言うと女は下げていた赤い革のバッグから包丁を取り出した。
「ちょっ、ちょっと落ち着いて!? 一体何があったの!?」
「何があったかですって……そんなの自分の胸に聞けばいいじゃない!!」
そう叫ぶと女は包丁を両手で握り悠の胸に飛び込んで来た。
咄嗟に先ほどまで死ぬ程行っていた動きを再現しようと体が動く。
だが、今回の体は余りに貧弱だった。
筋肉はついていても体は痩せすぎており、関節の柔らかさも先ほどまでとは雲泥の差だった。
攻撃を受け流す事が出来ず、悠の腹に包丁が突き立てられる。
勢いのまま仰向けに倒れた悠に、女は馬乗りになり腹から抜いた包丁を両手で振り上げた。
「……童貞の僕に……この状況は厳しすぎるよぉ」
「童貞!? 今日はって事!? ここまで来てもまだふざけるのね!!」
余計な一言は女の逆鱗に触れた様だ。
その後、悠は死を迎えるまで滅多刺しにされた。
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