第10話 成功かと思いきや
空を見上げれば曇り一つない青空が広がっていた。
畑はちゃんと肥料と混ざったようだが一つの誤算があった。
「ナナニアよ、これはある意味すごい光景だな」
「はは、これは誰も予想していなかったわね」
そこにはかつて畑と呼ばれる草原が広がっていた。
もちろん畑のところには雑草がちらほら覗く程度であったのだ。
俺様は考え違いをしていた。
畑の土と肥料を混ぜる事により、畑の質がよくなりすぎた。
その結果雑草が急成長を遂げた。
今では巨大な雑草の森へと変貌を遂げている。
周りにいる農家達は腰を抜かしている。
【井戸は完成したもようです。稲作の畑もトラクターで開拓が完了しました。あとは稲を植えるだけですが、それ所ではないようですね】
「ああ、そうだな、テレフォンブック、これはどうしたものか」
俺はパラパラとテレフォンブックのページをめくった。
なんとなく雑草が木々の代わりとなっている所を鑑定してみた。
「うお、これは」
俺様は巨大になった雑草を刃物で傷つけると、中から液体が流れてくる。
それは樹液のようにどろどろしていた。
俺はかまわず舐めてみた。
俺の頭の中にスパークした。
その甘すぎるスイーツのような甘味、実は鑑定した時に甘い要素がなんちゃらと書いてあったので、物は試しとなめてみたのだ。
俺がとろんとした表情をしているものだから、ナナニアが恐る恐る巨大な雑草に傷をつけて舐めていた。
「はうわあああああ」
珍しく女性らしい声をあげて喜んでいるナナニアであった。
農民たちも意味の分からない顔をして一人また一人と新しい作物と出会っていった。
俺様は農民たちが衝撃を受けてから立ち直るまでの時間を待ち、彼らを集めた。
「俺様達はとんでもない作物を作ってしまったらしいぞ」
農家の長は目をぎらぎらに光らせてこちらをじっと見ている。
「それはわしも思ったぞい、あの量の巨大雑草甘味処があれば、謎の甘い液体から何かを作れるのではないかのう、もちろん今回の失敗を生かして次は作物を作れるようにしないとな」
「長よ、野菜はとても大切な栄養源ですからね」
「そうじゃレイガスよ、野菜はどのような時代でも必要な栄養源じゃて」
こくりと大きく頷きつつも。
また同じことをすれば、野菜は作れない。
農家の人々と皆で隣の畑まで歩いた。
「ナナニア、どう思う、同じ工程を繰り返したら、きっと同じことになるぞ」
「ならさー雑草の成長を止めたり、枯らせる肥料または薬はないの? 人体に影響がない程度で」
俺様はテレフォンブックでその項目を検索してみた。
すると数件がヒットした。
【除草剤X:雑草を除去する】
これが一番有効のようだ。
これを数個購入して、水と混ぜて使用するようだ。
大き目の霧吹きみたいなもので畑にまくようだが、仕事が増えてしまったと思った。
「農家の長さんちょっといいですか」
「ふむ、なんじゃ、ふむ、そういうことなら任せろ、なるほど人体に危ないから気をつけろとだな、うむ、了解じゃ」
それから農家の人たちの仕事が増えた。
井戸は完成しており、稲を植える畑も完成している。
運がよかったのは稲の畑に肥料をまかなかった事だ。
そのおかげで稲の畑は巨大雑草畑になることにはならなかった。
仕事は3つ。
1つは巨大雑草畑から液体を採取して保管する農民たち。
2つは畑に除草剤をまくチーム。この除草剤Xはまいた後に土と混ぜる事で肥料を促進させるという意味不明な役割があるらしい。
3つが混ぜた畑に肥料をまくチームである。
農家の人達と協力して、畑開拓を進めた。
その間はラルガルシア王国に変化は起きなかった。
相変わらず民衆は貴族の邸宅を襲って、金目のある物を奪っている。
街中からはほぼ貴族がいなくなっている現状、それを止める理由もなかった。
冒険者ギルドのラガストギルドマスターとテニーちゃんはきっと相変わらず笑っているのだろう。
かくして一通りの農地開拓が終了を迎えた。
これを5日以内で納められた俺様達に神がいるなら讃えてくれるだろう。
「はぁはぁ、終わったぞい、わしはもう疲れはててナナニアちゃんのお胸をもませてくれんかのう」
「いいわけないでしょーが」
「がはぐふががががははは」
「ナナニア、老人は大切にしろよ」
「だってさ、レイガス聞いてよ、このくそ爺はことあるごとにあたしにセクハラ行為をしてきたんだよ」
「そしてことあるごとに農家の長を半殺しにしてきたのではないか」
「あの爺はどうやったら死ぬんだろう」
「それは本人に聞け」
俺様達は畑を振り返っていた。
巨大な雑草地帯は相変わらずそのままだが、そこから供給される甘い液体が一つの収入源となった。
除草剤Xを畑にまくのには農民達も苦労したようだ。
小さな霧吹き用道具を利用してのサンプリングは非常にめんどくささ満点だろう。
農作物を植える畑と稲を植える水田にも除草剤Xをまき終わった。
さらに肥料を混ぜるも、その次の日に雑草がぼうぼうに生える事はなく、巨大雑草になることもなかった。
それからは農民達総出で稲と作物の種を植えていくことに集中したのだ。
そして現在は巨大な倉庫に農家の長とナナニアと俺様で3人かしこまった表情をして腕を組んでいた。
「これをどうするかじゃが」
「ですよねー甘い液体で生き物に影響がない食べ物だということはわかるんだわよね」
「この液体を鑑定しても甘いと食べられるとそれと同じ用語の答えしか返ってこない、加工品にしようにもこんな雑草の液体をどうすればいいのかもわからない、この現状は困ったな」
「それじゃな、何かに加工するとかを考えるからあかんのじゃ、そのまま雑草の液体、つまりグリーンジュースと広めればよかろうて」
「なるほど、農家の長よそこは盲点でした」
「ふぉふぉふぉ、ということで、ぶごぐがうごああ、まだ発言しておらんぞおおおお」
「くそ爺の考えることは世界の女性ならわかることだわ」
ナナニアが真っ赤になった拳を握りしめてにやりと笑っていた。
その時だ。大きな街道から大きな楽器を演奏して戻ってきた部隊を見つけた。
最初どこかの国が攻めてきたのかと思ったのだが、彼らが掲げている旗はどこからどう見てもこの国の旗だし。馬車に至っては王家が使うものだろう。
どうやら石ころばかりを集めているバカ王様が戻ってきたようだ。
「あれってさ」
「そうだね、困ったなぁ、でも想定内だぜ、にひひ」
「なんかずるがしこさそう」
ナナニアが俺を見てそう呟き、俺は視線をじっと王様が乗っているであろう豪華な馬車に注がれていた。
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