第9話 商人は畑と共に

 その日、農家の長であるエルフ族の老人は仲間達を呼んできた。

 人間族はもちろんいるが、ドワーフ族もいたり、獣人族もいたりした。

 彼等の全てに共通するのは全員がご高齢という事だ。


 女性もいるが老婆だし、一番若いのが意外とエルフ族の農家の長である事が判明する。

 俺様とナナニアは爆笑したものだ。


「さて、わし達はどうすればよかろうかのう」


「俺様も先程、農家の長さんから色々と畑についてレクチャーを受けました。小麦と大麦は3カ月くらいかかり、トウキビは2か月、イモ類は4カ月、キャベツやレタスは1カ月、葡萄は成長した木があれば数週間ずっと実が実ると、作物の出来は地域ごとに違うとされてますね、色々と勉強になります。恐らく数日で全ての作物が実ります」


 俺様の断言に農家の長はがははははと笑っていた。


「いくらお前さんでもそれは無理だろうと昔のわしなら言っていた。あの肥料にはそれだけの可能性があるのじゃ」


 実は昨日に俺様は実験をしていたのだ。

 この畑の土を持ち帰り、植木鉢に入れて肥料と混ぜた。

 その結果にあっという間に雑草が伸びまくり、信じられない事になったからだ。


「成功したあかつきには収入の3割を貰うという事でどうでしょうか」


 農家の長はにやりと笑う。


「もちろんじゃ、きっとそんなのはした金ぐらいになるからのう、がははははは」


 周りのご高齢の農家さんは真っ青な表情を浮かべていた。


「数週間前に収穫を終えて、それを王様達が持ち逃げしたそうですよね」

「その通りじゃ、じゃが備蓄があるので問題なかったがのう」


「ですがお金も支払われていないと」

「そうじゃ、赤字じゃったからな」


「今回で黒字になるでしょう、まぁそのほうがやりやすいですがね、なぜなら畑が空っぽだからです」


「その通りじゃ、お主にレクチャーしたときは倉庫にしまってあった作物だしのう」

「そうです」


「皆さんにはこの布の袋に入った土のような肥料を畑の土と満遍なく混ぜてください。それがあなた達の仕事です」

「皆聞いたな、今出してくれるそうだぞ」


 俺様はテレフォンブックをアイテム替わりとして、事前に購入を済ましていた【肥料】を取り出す。


 綺麗に積み重なっていく肥料の布袋にご高齢の農民たちは腰を抜かしていた。


「し、しんじられねぇだ」

「す、すごい、鑑定したらありえないことに」

「こんな地力が、か、可能性があるぞ」

「トマトに枝豆? なんだこれは」

「あ、新しいものはそれとも地方にある作物かだべ」


 農民たちは先程まで真っ青な表情を浮かべていたのに、鑑定で確かめるなり、彼らは希望の光に吸い付いたようだ。


「皆やる気になったわね、レイガス」

「だな、ナナニア、後俺様はすごい作物を見つけてしまったんだ」


「一体何を見つけたの? レイガス」


 俺様は心の中から笑っていた。

 それはなんというか。


「米と呼ばれる作物だ。この米は稲作と呼ばれ、水の貯まった畑に苗を植えて成長させるんだ。まずは米の種から育てないといけないが、少し金がかかることで稲から始められるんだ」

「なにを言っているか分からないけど、凄い事なのね?」

「そうだ。この世界に水の中で成長させる作物があったか?」

「ないと思うわ、それって」


「ああ凄い事だ」


 くつくつと心の底から笑っていた。

 早く米とやらを食べてみたいと俺様は心の中から思っていた。


 その話を聞いていた農家の長はにやりと笑う。


「レイガスから話は聞いていたぞ米という奴。じゃが、畑を耕し、水を満たしたり抜いたりする設備を設置するには数か月の準備が必要じゃ」

「だがそれを可能にするのが俺の力だ。トラクターと呼ばれる道具を買う。結構な値段だがな」


「それはなんじゃ」

「トラクターは異世界の機械文明から生まれた物らしく、電力で動く、なのでここに風力発電を建設するが問題ないな?」


「もちろんじゃて」

「で始める」


 数分後には使われていない草地に風力発電が設置されていた。

 その近くには巨大な乗り物があった。

 それはトラクターと呼ばれる機械だ。


「俺様は操作が出来ないので、テレフォンブックの声に任せたいと思う」

【そのように説明書にも書かれていたはずです。了解いたしました。いますぐに稲作が出来る畑を作りましょう、近くには川はありますが、ここからだと遠いいので、いかがいたしますか】


「井戸をつくる」

【了解いたしました。それはそちらでやってください、畑を耕します】

「そちらは頼む」


「井戸じゃと、確かに造ろうという発想はなかった。まぁ畑じゃからな、水は基本的に雨水に頼るしかないからのう」

「そうですか、ですがそれは今日までです。数名集めて穴を掘ります。このスコップと呼ばれる道具を使ってください」

「おお、これは見たこともない道具だな、素材は鉄かのう、いや銅かのう」

「まぁこの世界では木製や歪な形をした石の掘る道具でしたからね、これはサクサクと掘れますよ」


 俺様は右足を引きずっているという事もあるので、作業に協力は出来ない。

 ナナニアは俺様の代わりに指示を飛ばす為、動き回っている。

 俺様は周りをよーく観察する。


 畑の土に【肥料】を混ぜている農家達。

 彼等の目はぎらぎらに燃えていた。


 テレフォンブックの声が無人のトラクターを動かしている。

 それで雑草で生い茂っていた地区が粉々になり畑へと変貌を辿る。


 数名の人々が米の稲を植えるであろう地区の井戸を掘っている。

 彼等の頬っぺたや頭には土などが付いており、彼等のどれもがご高齢だという事が信じられない事であった。


 元赤白花騎士団のナナニアは俺様の指示を周りに届ける為に、汗水たらして動き回った。


 それから数日が経過した。


 

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