第3話 滅びの始まり

 俺様とナナニアがどんな商品なら売れるかという事を考えている間。

 ラルガルシア王国中では暴徒と化した民衆が貴族の家を襲っていた。

 その音と叫び声を俺様達は聞いていた。


「うむ、民衆達は貴族達の宝物とやらを奪っているようだが、それを誰に売るつもりなのだろうな」

「確かに、売る所がなければお金にならず、食べ物がなければ交換もできないのよね」


「ふ、今俺様はものすごい事を閃いたぞ」


 俺様は口の端を釣り上げてにやりと笑っていた。


 このラルガルシア王国に備蓄されてあった食料は王様が持ち逃げした。

 いわば酒場とかには微量の食料があるようだが、市場が崩壊しているので食料調達も出来ない。


 という事は何が言いたいかというと。

 俺様は実行で示して見せる。


「俺様の手元には340万データ・ゴードある訳だから、民衆が持ってくるであろう宝物とやらをテレフォンブックに売り飛ばし、お金にする。さらに食べ物を売りさばくという事を繰り返す事により、市場は落ち着くだろう、まだまだ閃きそうだぜ」


「ふ、あなたはやれば出来る子よ」


「いつから俺様がナナニアの息子になったんだよ」


「冗談よ、親父ギャグってやつ」


「おそらくそれは親父ギャグではないかと」


「だけど、ここの商売があるとして、暴徒になっている民衆がここの事を知らないと意味がないわよ」


「それなら考えてある」


 俺様は1万データを使用して、拡声器というアイテムを購入する事にした。

 説明は脳内に響くあのテレフォンブックの声が説明してくれた。


「変な形のアイテムね」


「これは拡声器と呼び、辺りに声を響かせるアイテムらしい、どのくらいの距離に響くのかは分からないけど、無いよりマシだろ」


「そうね、がんばりなさい、で、あたしの役目は」


「用心棒って所と荷物運びだ」


「了解よ、どれだけ稼げるか楽しみね、今日の給料は寝床と夕食だけで許してあげるわ」

「それは助かりますよ、お嬢様」


「あたしはお嬢様じゃなくてよ、ふぉふぉふぉ」


「それだと爺だから」


「せめて婆といってよおおおお」


 俺様とナナニアが爆笑していた。

 

「さてと始めるとするか」


 俺様は拡声器と呼ばれるアイテムを口に当てて叫んだ。

 その音は周りに響いた。

 耳の中にある鼓膜を突き破るのではないかと思えるくらいの響き方であった。


 その音が辺りに響いた瞬間、暴徒達が次から次へと静止したのだろう、騒ぐ音が聞こえなくなった。


【ようこそようこそ、アイテムを買います。アイテムを売ります。食料もたんまり無限にありますよ、強盗しようとしたらお仕置きします】


 という内容で叫んだわけだ。

 

 俺様とナナニアは椅子に座って辺りを見回した。

 すると最初は1人ずつ建物の隙間から頭を出していた。

 こちらと目があうと彼はこくりと頭を下げた。

 1人また1人と現れ、それが津波のごとくになる。


 貴族とか兵士とかが大勢逃げて行った事、彼等には次に住む場所があるのだ。

 よくよく考えてみれば、次に住処がない下級民達は引越する事も出来ない。

 食事がなくなってもネズミを食ってでもこの国にいる必要がる。


 大勢の貴族と兵士と上級民の一般人達には別の場所で生きていける財産がある。


「そうだったよな、そうだよ」


 悩んでいるのは俺様だけではない、俺様は右足を負傷してサーカス団を追いやられた。そういう不幸は俺様だけだと思っていた。

 しかしそれは断じて違うのだ。


 悩む人は1人だけにあらず、今ではそれが目に見えている。


 気付けば大勢の人々が露店の前にちゃんと並んでいた。


 これが貴族とかだと道をあけろとか横暴な事をするのだが、ここにいるのはそれぞれの痛みを理解している下級民であった。

 

「あの、これ買ってください」


 それは明らかにその男性のアイテムではない事を裏付けていた。

 そのアイテムは高級な宝石が2個だった。


「はい、買い取りますよ、少々お待ちください」


 アイテムをテレフォンブックに入れる。


【鑑定結果500万データ】


「これは300万ゴードで買いますよ」

「ま、まじっすかああああああああ」


 その男性は腰を抜かしていた。

 本当は500万データで売れるが、そのままお金を渡すとこちらに利益がないので、そこからこちらの利益として200万データとする事をにする。


「じゃあ、そのえっと、すごい言いづらいのですが、本当に食べ物とか無限にあります?」


「はい無限にあります」


「でも、どこにしまってあるのかな?」


「それはアイテムボックスみたいなやつです」


「あんな高級な物があるんですね、では米と豆などをあるだけください」


「了解しました」


 つまり300万データで買えるだけの米と豆類だ。

 米は1kgで1万データなので彼には2万データで売ると計算すると米が75kg売る事にして利益は75万データである。豆も同じなので、豆類が75kgで売って75万データの売り上げという事だ。


 合計で150万データの売り上げとなった。

 たった一人の男性の収益でこれだけの利益が出た事に、俺様は恐怖を感じた。

 なぜなら果てしなく蛇の尻尾の如くずらりと長く並んでいる人々を見ているから、そのせいか利益は恐ろしい事になるだろうと、その時の俺様は思った。


 ひたすらの商売であった。

 色々な問題を抱えている人々がいた。

 米、豆、野菜、果物の注文は当たり前であり、中には水や葡萄酒やエール等を注文する人や、多種多様なインゴットを注文していく鍛冶屋のおっさん達。


 回復ポーションまで購入していく冒険者達。

 この国で今存在している露店の商売人は俺様だけであった。


 俺様は天下無双を取れるかもしれない。


 太陽はもう既に沈んでいる。空を闇色が覆った。

 空気が冷たくなってくる。大勢のお客さんの接客を終わった俺様とナナニアはくたくたになっていた。


 ナナニアは基本的に用心棒の役割であるが、小さい子供の御世話などを奥様達からお願いされたりしていた。


 露店を閉めようとしたまさにその時、10名くらいの兵士達がやって来た。

 どうやらまだ移動していない兵士達がいたようだ。


 ナナニアはその10人を見て顔色を変えた。

 それは苛立ちを表す怒りの形相であった。


「何しに来たんですか、隊長、もうあたしは赤白花騎士団じゃありませんよ」


「そうか、おめーには関係ないな、今日は沢山売れたんじゃないんですか? 商売人さん」


「何がいいたい」


「少し分け前を貰ってもいいんじゃないんですかねぇ」


「この国はほぼ崩壊している。お前達に上げる分け前はない」


「へぇ、そんな事いっていいの? この露店を壊してお前の商品を押収する事だって出来るんだぜ、なぁおめーら」


【ぎゃはははは】


 俺様は頭をぽりぽりと掻きながら。


「おっとそこの怪力女は手をだすな四方からこの男を弓矢で狙ってんだよ、こちとら怪力女に吹き飛ばされなれてんだよ」


「なるほど、この子は怪力女だったか」


「そうそう、いつもぐちぐち言ってうっせーんだよ、隊長の言う事聞いて、可愛い顔だけ見せればいいんだよ、そう言う事をいうとセクハラだーなんだらとさぁ、なぁ訳ま、がぎゃああああああああああああ」


 それた突然の悲鳴であった。


 その悲鳴に追い付いていないのは勇者と魔王の末裔であるナナニアとて同じであった。


 赤白花騎士団の団長の手の甲には割りばしが突き刺さっていた。


「おい、おめー俺様の店員になめた口いってんじゃねーぞ、この店員の可愛い顔は俺様のもんだ」


 その場が凍り付き、次にナナニアの顔がぼっと真っ赤になってしまい。


「だからそれもセクハラ」


 と頑張ってナナニアが叫ぶ。


「おい、箸を抜いてほしいか? ええ、 抜いてほしいのか?」

「は、はい、お、おね、ぎゃああ、おねがいします」


「そうか、俺様はバカではない、お前は箸を抜いた後こちらに攻撃をしかけるように部下に命令するだろう、どうだ?」


「は、はいいいいい」


「そうか、そこまで痛いか、生憎俺様は右足が負傷しているんだが、おめーらは負傷している右足だけでも大丈夫そうだ」


「あの、意味がわから、ぎゃああ、ないんですが」


 俺様は久しぶりにその仮面を被る事にした。

 懐から道化師の仮面を抜いた。

 ニコニコと笑っている不気味なピエロの仮面。

 ガキの頃からそれを被るとずっとずっと強くなれる気がしたんだ。

 それが思い込みでもそれが役割だとしても。


「お、おまえは、知ってるぞ、殺人鬼ピエロ・トッド・ニーアスだな」


 そうこれが本当の名前、レイガスは仮の名前。


「俺様は殺人鬼ではないんだがねぇ」


「る、るせええ、おめーの首には懸賞金が」


「じゃ、みんな死んでおく?」


 辺りを支配する冷気にその場にいる兵士達は絶句してしまう。

 隊長の首がゆっくりと地面を転がっていく。

 ただ右足だけが宙に存在している。

 右足で首を切ったのだ。

 別に鋭利な刃物を足に嵌めているわけではない。


 その右足の超高速により隊長の首がころころと地面を転がっている。

 

 その光景を唖然と見ているのは何も兵士だけではない、勇者と魔王の末裔であるナナニアでさえ絶句している。


「なぁ、おめーら、逃げたら殺すぞ」


【ううがあああああああ】


 兵士10名が尻尾を抱えて逃げると次の瞬間全ての体がバラバラに吹き飛んだ。

 それも粉くらいの大きさになり風となり消滅する。

 何もかもが早すぎた。

 人の近くでは察知出来ないレベルのスピード。

 そもそもそれはスピードと断じていいのだろうか。


 俺様はにやりと笑っていた。


 ちょうどその時には辺りに兵士達以外の人はいなくて、目撃者はいない、ただ1人の目撃者を除いて。


「いやーこれは隠そうかと思ったんだがねぇ、つい本気になっちった」


 ナナニアは震える声を上げながら。突如として1人の女性となっていた。

 俺様はナナニアに抱きしめられていた。


「もういいから、そんなに悲しそうな顔をして、一体あなたに何があったのレイガス」


「は、はは、なんかほっぺたが濡れてるや」


 

 俺様はまたやってしまった。

 また殺してしまった。

 力でねじ伏せようとする奴がいたら、力で破壊したくなる。

 その欲求にかられ、それは本能となった。

 人が呼吸をするように俺様は人を殺す。


 いつしか大事なものを見つける事が出来るだろうか。


 きっとそれは商売にある。そう見つけたんだから。

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