第49話
デニスは槍を右肩に担ぎ、今にもザシャへと投げようとしていた。
「行くぞ!」
デニスは思いっきり左足を前へと踏み出し、身体を弓の弦のように捻り上げ、槍を投げた。
「神器解放・城塞砕き!」
デニスによって投げられた槍のボーは白光を放ちながら宙に穿(うが)たれる。
ボーは高弾道の鋭い弓なりとなって軌道を描き、降り注ぐようにザシャの位置を狙って落ちてきた。
「俺のサインと神器解放か! 面白いじゃねえか!」
ザシャは光の柱を浴びながら、長い銀髪を振りまき右手を頭上に広げる。
その途端、槍のボーとザシャの右手がぶつかりあい、目のくらむような閃光を発したのだ。
「うおっ!?」
これには距離をとっていたデニスも怯む。けれども怖気づいたままではいけない。なにせ光が完全に収まった時、槍のボーが無防備にひらひらと舞っていたからだ。
「こいっ!」
ボーがザシャに握られる前に、デニスはそれを引き寄せる。
ポーンッ、とポールが跳ねるような音と共に、デニスはボーを手の平で受け取ったのだ。
「ザシャの破壊のサインでも、神器解放を破壊できない、か」
だが逆に言えば、ボーの神器解放をもってしてもザシャのサインを破壊できない。となれば、直接的な力のぶつけ合いは消耗戦になってしまう。
特に神器解放は魔素を使う。サインの力自体は普通に使えば負担が少ないため、先の衝突はおそらくデニスの方のダメージが大きい。
となると、別の手段を講じなければデニスの方がジリ貧だ。
「ならば――」
デニスは周囲を駆け巡り、身を低くして倒れた兵士の武器に手を触れる。
初めは数本、しばらく経てば十数本、デニスの周囲を浮遊する形で武器が蒐集(しゅうしゅう)されていった。
ザシャも黙ってそれを見守るだけではない。自分からデニスへと飛び掛かり、あえて武器の旋風へと身を投じてきたのだ。
「確かお前の目的は理想郷を作ることだったな」
ザシャは右手のサインと左腕のアダマスの鎌で武器を弾き、砕きながらデニスへ語り掛ける。
「だったら何だ?」
デニスは会話を合わせつつも、武器を集めるのを止めない。話すのに集中して戦うのを忘れるという愚の骨頂を、強敵のデニス相手に見せるわけにはいかなかった。
「支配者を引きずり降ろして、自分たちの支配をする、か。確かに一時的にはそうなるだろうが、そいつは矛盾だらけじゃねえか」
「……!? 何を――!」
「例え新しい支配者になったところで同じ支配階層を引き継ぐだけじゃねえか。それで何が変わる? 支配する者、される者が変わっただけで構造はそのままじゃねえか。そんなもの、理想郷か?」
「……」
デニスもそれは否定できなかった。もしデニスたちが王国を滅ぼして新秩序を作ったとしても、同じ王国を作るだけかもしれない。
そうなれば新しい歩みができても、結局は魔族や獣人族との対立を生んだり、魔王討伐という同じ道をたどるかもしれない。
いや、その可能性の方が高かった。
「例え、例えそうだったとしても、何も変わらない輪廻だったとしても、今ある苦しみを百年か千年先延ばしにできる。それさえできれば希望はある!」
デニスはキッとザシャを睨み、反論した。
「ほう、なるほど。そうなれば面白いかもしれねえな」
「否定しないのか?」
「まあ、俺にとっては新秩序なんて構わねえし、新神教の教えさえ邪魔しなければ立ちふさがる理由もねえな」
「……本気かよ?」
デニスはザシャの顔色を伺うと、そこには狂信とは別の感情を感じ取った。
「俺はただ、化け物になりたいのさ」
ザシャは心底楽しそうに笑う。それは殺戮を好み、破壊を好み、蔑(さげす)みを尊(たっと)ぶ愚者の顔だった。
「俺は狂信者である前に、神でもなく、人でもなく、世界の異物となって戦いてぇ。それさえできれば俺は戦える。それが俺の唯一無二の戦う理由さ」
ザシャのその願望はおそらく、最終的には新神教をも裏切る。だからこそ、国王も新神教もこのザシャという男を差し向けたのだ。
デニスとザシャは、違う意味で2つの勢力に嫌われた、どちらも偽の勇者なのだ。
「くっ!」
デニスは自分とザシャの立ち位置が同じであるという事実を否定するように、束ねた武器全ての矛先をザシャに向けた。
その数は数十本もあり、数は様々、ザシャの視界を覆うほどの量だった。
「くだらねえな!」
ザシャは両腕を振るって、自分に立ち向かう障害を跳ね飛ばし、破壊する。
しかし、それこそデニスの狙いだった。
視界を覆われたザシャは後ろ上方へ意識できない死角ができる。そこへボーをサインで操作して飛来したデニスが回り込んだのだ。
「ここ!」
デニスはもっとも不意打ちの形で、ザシャの首筋を狙った突きをお見舞いしたのだった。
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