第37話
領主の軍勢はどこで情報を仕入れたのか知らないが、既に攻城用の兵器を用意していた。
複数の破城槌、無数の梯子、それらを携えた騎士達が猛然と中層の城壁に向かってきていたのだ。
ただし城壁側も今やただの土づくりではない。完璧な石造りの城壁に、立派な木造の城門、それらが今やデニスたちの最後の砦だった。
だが今は城壁の内側にデニスはいない。
デニスはただ1人、領主の軍勢に単身突貫しているのだった。
「神器解放!」
デニスは敵へ駆け寄りながら神器であるボーに魔素を込める。
ボーが一際眩しく輝いた時、デニスの腕からそれは投じられた。
「城塞砕き!」
デニスの放ったボーは白い閃光のような放物線を描き、領主の軍勢の中心で炸裂する。
ボーの着弾の衝撃で地面にクレーターと、周囲にいた数人の騎士が鎧ごと食い破られる。
それでも散開していた騎士たちの多くに痛手を与えられず、想像以上に戦果が出ない。
デニスはボーを引き戻しながら、ある展望を見出した。
「だが散開しているなら、押し通れる!」
デニスは残念がる様子もなく、そのまま領主の軍勢の中へ入りこんだ。
「反逆者のデニスだ! 討って名を上げよ!」
部隊長らしき男が騎士たちに命じると、複数人の騎士がデニスに殺到する。
しかし、戦いの腕が上手な上に、スピードの乗ったデニスは簡単に止まらない。
デニスは通りすがりざまに騎士たちの鎧の隙間を刺し貫き、何人もの騎士を戦闘不能にせしめた。
「これなら――」
これなら領主の元までたどり着き、討てる。そう感じていたデニスの前に、大きな影が覆いかぶさった。
「忘れてもらっちゃ困るねえ!」
柳の枝のようなその姿は、現在の勇者であるザシャだ。
ザシャは左腕で振るった片刃の大剣で、デニスの槍の一撃と勢いを止めてしまった。
「くっ!?」
デニスはザシャの攻撃の前に後退してしまう。
その隙をチャンスと見たのか、再びデニスを囲い込むように騎士が殺到した。
「邪魔立てするな!」
デニスは見事な槍さばきと体裁きで騎士たちの攻撃を曲がりくねるように避けながら、反撃する。
けれども今度は騎士達も自分たちのウィークポイントを守ってきた。どうやら学習しているらしい。
「魔法騎士前へ!」
ザシャの一声で赤く鎧を染めた騎士たちがデニスの前に立ちふさがる形で並び立つ。
すると赤い騎士たちは各々(おのおの)演唱を始めたのだった。
「くそっ!? 」
デニスの悪態を合図にしたかのように、赤い騎士たちの手先から炎や氷、雷が放たれる。
デニスはこれを横っ飛びに転げまわり、何とか回避した。
反撃とばかりに、デニスは槍を赤い騎士たちに投げ込もうとするも、先にザシャが目の前に割り込んできた。
「ぐうっ!?」
ザシャの奇襲にも近い一撃はデニスの胸を抉りこむように振り下ろされる。
幸いにもデニスはこの斬撃を槍で防ぎ、更に転げまわったのだった。
「放て!」
ザシャは攻撃の後すぐさま赤い騎士に命じ、再び魔法の一閃がデニスへ飛んでくる。
デニスはまたもや回避しようとするも、今度は炎の魔法の一部が左腕を焼いた。
「っ!?」
デニスは熱さによる悲鳴を噛みしめ、地面にもみ消すように燃える左腕を押し付けた。
ザシャはその様子を嗤いながら見ていた。
「どうした? 元勇者。その程度では俺の首どころか領主の首は奪えねえぞ。それにほら、城壁の方ももうすぐ終わりそうじゃねえか」
ザシャが促すように城壁を見ると、既に領主の騎士たちが城壁の上へあがっている。これはもう全滅まで時間がない。急がねばならない。
「どけろおおおおおお!」
デニスは左腕を庇いながらも慟哭にも近い叫びを上げ、ザシャと赤い騎士たちに挑みかかるのであった。
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