第25話
「本当にコイツでいいのですか?」
「ああ、構わないやるぞ」
デニスはエメたちが見守る中、台座に置かれたダンジョンコアに手をかざし、願いを捧げた。
「俺が生み出すのは――」
デニスは唱えた。
「モグラの魔獣、土親方だ!」
その瞬間、ダンジョンコアが光り輝く。
やがて光は一点に集中され、線を描くように何かの輪郭を描く。
それは頭、顔、肩、腕、胴体、足と描かれてついに姿を現した。
それは二足歩行するモグラだ。ガタイはよくてゴブリンよりも大きく、頭に鎧の兜のようなものを被っている。
手先は人間のように器用だが爪は大きく、モグラ名残の尖った鼻が印象的だった。
「どうして土親方なのです?」
エメは間違いではないかとおそるそる聞いた。
「今大事なのは何を持ってもダンジョンの改築だ。この土親方は土木作業に適任だって書いてただろう。ならば利用するに越したことはない」
デニスの言い方に、ゴロウは納得したようだった。
「ふむ、その通りでござるな。土親方は東方にてダンジョン外の建築に使われるほど有能で人懐っこい。まったくもって今の状況に適任でござるな」
「黙ってろ。猫」
「……ふ、不服でござる!?」
ゴロウの補足につらく当たると、デニスはどんどん土親方を生み出していった。
最終的には土親方は10体。中々の数である。
「これでも魔素の余剰は十分そうだな。だが余分に生み出すのは止めとくか」
「魔獣とはいえ一気に10体も……。やはりデニスは魔術の才があるですね」
「? いいや、俺には魔術の素養なんてないぞ」
「そんな!? さっきの決闘だって凄い力を使ったじゃないですか。もしかして、サインの力です?」
デニスは「ああ」と思い出す。
「神器解放の事か。あれはこいつの特性だよ」
デニスはそう言うと、手に持っていたボーを軽く揺すった。
「神器は原神、つまり旧世界の武器だ。神話によれば神様が作ったらしいが、単なる創作だろうな。でもそれを信じさせるだけの力がこいつにはある。それが神器解放だ」
デニスは我がことのように話し始めた。
「神器解放は神器に周囲や自分の魔素を取り込ませて開放する力だ。だから魔素適性さえあれば魔法に長ける必要はない。そして俺のボーはシンプルに投射能力が上がる。しかも、こいつは狙う必要がない。自分から目標に飛んでいく。ただし逸らされたり防がれたりすれば別だがな」
「城塞砕きって言ってましたですからね。……本当にですか?」
「さあ? 俺は非戦闘員のいるかもしれない城に直接投げ入れたりしないからな」
「……デニスは優しいですね」
「何だ? 非戦闘員を殺せばこちらの士気に関わるってだけの話だぞ」
デニスのそんな打算的な話にエメが肩透かしを食らっていると、牢屋にいたはずのカンタンがデニスたちに走り寄ってきた。
「デニスさん! ヨーゼさんが起きました」
デニスはカンタンに言われ、すぐに牢屋に向かった。
その牢屋の中では胡坐(あぐら)をかいて沈痛な面持ちのヨーゼが待っていた。
「くっ、私に情けを駆けおって。殺せ!」
「なんだか女騎士みたいなこというですね」
エメがそう茶化したので、デニスは軽く頭を小突いた。
「こうして静かに話すのは久しぶりだな。ヨーゼ」
「生き恥を晒してまで得たい平穏ではない。何故私を生かした」
「理由はいろいろあるが……そうだな。騎士ならば正々堂々と振舞えるよな」
「な、何が言いたい」
デニスはカンタンを見ながら、目論見を話した。
「この青年、カンタンに稽古を付けて欲しいんだ」
「!?」
デニスの提案にその場にいた全員が驚いた。その中でもカンタンの反応は強かった。
「ぼ、僕殺されちゃいますよおおおおおおおお!」
カンタンの情けないそんな叫びだけが、デニスにとって予想外のリアクションだったのは言うまでもないだろう。
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