第24話

 2人の決闘が終わり、最後に立っていたのはデニスだった。


 決闘が終わるや否や、デニスの元にはエメやゴロウ、カンタンやダンジョンのモンスターたちが駆け寄ってきた。


「やりましたですね。最初のダンジョン防衛成功です! アタシは信じていましたよ」


 まず最初にエメがデニスの横に並び、賞賛した。


「うむ、貴殿とは刃を交わした時から腕利きと思っていた。あっぱれでござる」


 ゴロウがまるで宿敵か何かのように口を出した。


「やりましたね、デニスさん! これでしばらくは安泰ですね!」


 最後に言葉を口にしたカンタンに対してだけ、デニスは首を横に振った。


「いや、まだわからんぞ。すぐに軍を再編成して戻ってくる可能性もある。城壁の修復を急げ」


 デニスに命じられ、近づいて来ていたモンスター達は自分たちの役割を知り、各自戻って行った。


「また後で、俺、もっとデニスと話したい」


「分かってる。加入して早々戦闘に参加させて悪かったな。牛鬼」


 牛鬼は嬉しそうに顔をほころばせると、他のモンスター達に混じっていった。


「さてと」


 デニスはモンスター達から目を話し、倒れこんでいるヨーゼを見た。


「まだ生きている。よな」


「拳程度でやられる人には見えなかったです。大丈夫ですよ」


 エメはそういうとルンルン気分でヨーゼに近づき、見下ろした。


「それでどうするでござるか。ここは打ち首で処すでござるか?」


 ゴロウが急に物騒な話をしたため、デニスはしかめっ面で注意した。


「馬鹿野郎! 仮にも気絶している相手だぞ! このまごうことなき能無し猫が!」


 デニスに強く罵倒され、ゴロウは悲嘆した。


「不服でござる!?」


 デニスは不満たらたらなゴロウを無視し、ヨーゼの救護を行った。


「鼻血は……止まってるな。擦り傷ばかりだが重症はない。よかった」


「よかった、って。それよりデニス! アナタもケガしているじゃないですか! 先に手当てが必要なのはそっちですよ!」


「おっ、そうか? 興奮しているせいかあまり痛く……イテテテッ、今更響いてきた」


 デニスは主に背中、肩、腹部に殴打や切り傷があった。特に肋骨は砕けているようで、重症の度合いではどう見てもデニスの方がよっぽどであるように見えた。


 それなのにデニスはヨーゼを抱えた。


「ヨーゼは捕虜だ。ちゃんと寝かしつかせないとな。牢屋に」


「だ・か・ら。安静にしないといけないのはデニスの方です!」


 そうしてヨーゼは即席の牢屋で軟禁され、決闘の後処理は粛々と行われ始めた。


 まずは状況確認からだ。敵は半数以下がちりぢりになって逃亡し、これを角狼が追撃している。これなら再び編成し直すには時間がかかるだろう。


 城壁の方は2つの城門が砕け、土壁も踏み荒らされて平らになりかけている。


 そして最もひどいのはこちらの死傷者だ。


 確認できるだけでもオークは3匹、ゴブリンは8匹、トロール1匹、そして魔獣たちにも手痛い死者が出ている。


 死んではいない者も半数近くは怪我をしており、全く無傷なのは最後方で指揮をしていたエメくらいだった。


「なんだか申し訳ないです……」


「いや、エメの煙魔法がなかったら危なかった。助かったよ。エメ」


 エメはデニスに褒められると、恥ずかしそうに顔を赤くした。


「しかしこれだけ損害が出ると人手が足りない。物資は交易で得た分で何とかするにしてもな……」


「ならダンジョンの更なる機能をご紹介しますです」


 エメは赤い顔のまま得意げに話し始めた。


「デニスはダンジョンのモンスターがどのように発生するのか知っていますか?」


「ん? 生殖じゃないのか?」


「そ、それもありますですが、他にも方法があるのです!」


 エメはデニスの直球に慌てつつも、解説を続けた。


「ダンジョン内でのモンスターの発生はもうひとつありますです。それはダンジョンコアを使ったモンスターの生成です」


「生成? 命を生み出せるのか!?」


「そうです。ダンジョンコアはダンジョン内を循環する魔素の余剰分を保有しているマジックアイテムなのです。だからモンスターを魔素の塊として物質化できるのです」


 エメはそう語った。


 デニスは正直、驚きを隠せなかった。これまでの魔法は生命の誕生まではできておらず、例はないのだ。


 それほどならば魔術師がダンジョンコアを欲しがるのも無理はないのだろう。


「ただしモンスターに込められる魔素は限界がありますですし、大きければ少なく、小さければ多くなるデス。つまり小さくても多い軍勢か、単体でも大きなモンスターかを選べるわけです。どうします?」


 エメはデニスに答えを促した。


「具体的なモンスターを教えてくれないか」


「こちらです」


 エメは用意が良く、モンスターの一覧がかかれた羊皮紙をデニスに差し出した。


 デニスはざっと目を通すと、迷いなく1種類のモンスターを選んだ。


「こいつで頼む」


「……え? そんなにあっさりと決めていいのです?」


 エメがデニスの指さしたモンスターを見て驚く。


 何故ならそのモンスターは――。

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