第23話

 手に触れた武器を遠隔操作できる力、それがデニスの力だ。


 デニスは剣と槍と盾を整列させ、戦列兵のように一斉にヨーゼへ襲い掛かった。


「いけっ!」


 サインの力による遠隔能力の力の強さはデニスとほぼ同等だ。デニスが直接投げれば2倍のそれらはヨーゼの身体を串刺しにしようとする。


「ツインタイフーン!」


 ヨーゼは風に命じ、2つのつむじ風を起こす。


 その風によりサインの力で動いた武器たちはあらぬ方向へ飛び去った。


「まだまだ!」


 デニスはそれでも武器の方向を転換させ、ヨーゼの周りを旋回させる。


「こちらも!」


 ヨーゼもまた、風だけではなく水や樹木で剣舞を跳ね返す。


 これは完全に物量船の消耗戦だ。どちらが先に力を使い切るか、その勝負だった。


 しかしそれはヨーゼの望む決着ではなかった。


「これで終わりにします!」


 ヨーゼはわざわざ長い演唱に入り、隙を作った。


「させるか!」


 デニスは大きく楕円を描いた軌跡を武器にとらせ、ヨーゼを襲う。


 今度のヨーゼは自身の危機から回避しない。その必要がなかったからだ。


「混合魔法・スチームインパクト!」


 ヨーゼを囲む形で強い蒸気の衝撃が広がる。


 それは何物も寄せぬ風量と熱を周りに帯させる魔法だった。


「炎属性と水属性の合わせ技か!」


 デニスはヨーゼの意図を感じ、後ろに跳んだ。


「さらに重ねて命ず、スチームインパクト!」


 次は指向性をもった水蒸気の一撃がデニスを目指す。


 まるで巨人の一撃のような風圧は、デニスの身体を巻き込んでダンジョンの壁に叩きつけた。


「ぐっ!」


 デニスは壁に叩きつけられて呻くも、身体を引きずるようにゆっくりと立ち上がった。


「それがお前の究極の技なら」


 デニスは神器ボーを正面に構える。


 そしてボーへ祈るように唱えたのだった。


「神器解放・城塞砕き」


 ボーから凄まじい魔素が放たれ、その間にデニスは槍を投げる構えを取った。


「混合魔法・スチームインパクト」


 デニスからただならぬ雰囲気を感じたのか、ヨーゼは慌てて魔法を唱える。


 そしてほぼ同時に、それぞれの力が放たれたのだった。


「うおおおおおお!」


 デニスの咆哮と共に放たれた槍は空気の壁を突き抜く、轟音と共に空を切り裂く。


 槍はほぼ地面と垂直に、重力を感じさせない飛来をした。


「くっ」


 これはヨーゼも直接受け止められないと判断し、スチームインパクトを操る。


 それがどのように行われたかと言えば、スチームインパクトでボーの強力な穂先を受け流す形ように突き飛ばしたのだ。


 ボーは受け流しにより正しくヨーゼへ衝突せず、その上空を越えて後ろの土壁を木っ端みじんにし、はるか後方へ飛んで行ってしまった。


「必殺技を受け流せた。これで――」


 ヨーゼは危機が去り、安堵した。


 だがそれは些(いささ)か軽率であった。


「勝つまで油断するなと、教えたはずだぞ!」


 ヨーゼはハッとして気付く、槍を投げた隙にデニスが猛進し、すでに目の前にいたのだ。


 デニスは固いアイアンヘルムの上から、渾身の拳を叩きつけた。


「――っ!?」


 ヨーゼはデニスの攻撃を顔面に受け、後ろへと後退した。


「もういっちょ!」


 デニスはもう一度踏み出すと、さらに強いパンチをヨーゼの鼻っ面に叩きこんだ。


「ぶっ!」


 ヨーゼは避けるのもままならず、鼻が折れる鈍い音と共に首をのけ反りながら地面に倒れ込んだのだった。


 そうして、ヨーゼはそのまま動かなかった。


「俺の勝ちだ。馬鹿垂れが」


 デニスは骨折してめちゃくちゃになった両手を握り、勝利の宣言をした。

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