第19話

 王国騎士団の軍勢が、洞窟へ群れを成してやってきた。


 歩兵は革と鎖帷子の装備で身を固め、騎士は全身鉄板のような銀の重装甲に包まれ、その行進はダンジョンを揺らした。


 また鎧の擦れる音は泣き声のように、曳かれた攻城兵器は呻きのように聞こえ、それらは周囲に響き渡っていた。


「敵、数200変わらず! 梯子多数! 攻城槌5!」


 1番高い城壁の上から敵兵を眺めていたカンタンがそう報告する。数や準備はデニスの予想通り、相手は城攻めの構成で来ていた。


「手はず通りに行くぞ! 各員準備!」


 デニスは武装を施されたモンスターたちを見下ろし、宣言した。


「これより死地に入る。だが心配するな1番槍はこの俺、そして俺より死に近づくものは俺以上にいない!」


 デニスがいるのは城壁の上ではない。むしろ逆、門前にいた。


 馬に騎乗し、その後方にはダンジョンの家畜ともいえるブタムシに乗ったオークら数騎の姿があった。


「全員! 突撃準備!」


 城の防衛でありながら先行した騎馬突撃、それがデニスの秘策の1つだった。


「城門開け! 原神の加護よ、すべからく平等に我々を迎え入れよ!」


 城門がゴブリンたちに開かれると、全騎駆け出した。


 デニスは蹄を鳴らし、オークらはブタムシの多脚で地面を踏みしめ、門外へ排出されていった。


 馬の速度はブタムシよりも圧倒的に速い。デニスは慣性に引っ張られながらも馬に全力疾走を命じ、歩兵たちのど真ん中に突入した。


「デ、デニスだ! 反逆の勇者だ!」


 槍を大きく構えたデニスに、梯子や攻城槌を持った歩兵たちは槍衾(やりぶすま)を作る暇もなく狼狽(うろた)える。


 槍さえなければ騎馬突撃に怖い物はない。デニスは右へ左へ槍を振り回し、歩兵突撃の先端を突破した。


「続け!」


 続いてオークたちのブタムシが鈍重な突進を決めて、デニスが作った隊列の隙間を掻き分ける。それはまるで葉を食う芋虫のような浸食だった。


 「右旋回!」


 歩兵の隊列の後ろにいた騎士たち重歩兵を避け、騎馬突撃は進路を変更する。


 通常は進路の維持や方向転換は凄まじい練度が必要なのだが、デニスに与えられたダンジョンマスターの権限でオークたちへの十分な意思伝達が行われているのである。


 代わって王国騎士団の軍勢は、歩兵の混乱と騎士たちの浮足立ちが目に見えていた。それでもデニスたちの騎兵はたった9人。攻撃を食らっていない騎士たちの立ち上がりは早かった。


「馬を用意しろ! こちらも騎馬で迎撃する!」


 騎士たちの間に凛と響く透き通った声が行き渡る。この声はデニスにとってかつて聞きなれたものだった。


「ヨーゼ――!」


 デニスは騎士たちに突貫したい気持ちを抑え、進路をそのまま帰還の方向へ戻す。


 ついに歩兵の陣を後から食い破り、城門へ戻って行くデニスたち。デニスは騎馬の脚をオークたちブタムシに足並みを揃え、騎馬部隊の状態を確認した。


「1騎脱落か……だが成果はあったぞ」


 そもそも騎馬突撃はリスクの大きい行為だ。いくら人の2・3倍の馬やブタムシであっても、人の群れという物理の塊に突入するのは自殺行為に等しいのだ。


 デニスは更に後方を確認すると、歩兵の群れから王国騎士団の騎馬数騎が出てくるのが見えた。


「先に行くぞ!」


 デニスはオークたちのブタムシから離れ、一足先に城門へ向かう。


 そのまま半開きの城門にデニスが潜り込むと、なんとすぐに閉じてしまったのだ。


「馬鹿め! 味方を見殺しか!」


 城門の外からデニスを罵倒する女性の声が聞こえる。


 デニスは颯爽(さっそう)と馬から降りると、土の城壁を駆け上がり戦況を見た。


「無知な奴め。ブタムシはこういう時に役立つんだよ」


 デニスの言う言葉は間もなく実現された。


 オークたちのブタムシはスピードを落とさず、王国騎士団に追い付かれる寸前で城壁に辿り着く。


 すると、そのままブタムシは土壁の急斜面を登り始めたではないか。


「!? 突撃止め! 戻れ戻れ!」


 ブタムシは多脚の足の裏が吸盤状だ。そのため切り立った崖さえ登れる。これをエメから聞いたデニスは足の遅さを補う奇襲攻撃を思いつけたのだ。


 デニスの目論見に気付いたヨーゼは慌てて馬の進路を変えて戻ろうとする。しかし他の騎士はそうもいかない。


「投石投射、各自撃て!」


 城門を登るオークたちのブタムシを飛び越す形で、20以上のゴブリンが思い思いの物を外へ投げ出す。


 石や槍の雨を浴びた騎士たちは混乱し、ある者は負傷するか、止まれずに土壁へと激突して落馬する者ばかりだった。


「続けて第2射! ってえ!」


 ゴブリンは横に積み重ねた石や槍を次々と投げる。そうなると落馬した騎士や動揺している馬上の騎士を更に混迷へと追い込んだ。


「一時撤退だ! 負傷のない者は立ち上がった者を乗せて戻れ! 倒れた者には構うな!」


 ヨーゼは冷徹にも正しい判断をする。このまま長く城門の前で留まれば一方的に攻撃されるだけで反撃はおろか被害も減らせないからだ。


 ヨーゼ自身も危険を顧みず、なんと2名もの落馬した騎士を乗せ、1番最後に撤退したのであった。


「撃ち方止め! 無駄玉はするな!」


 ゴブリンたちはダンジョンマスターの権限で素早く指示に従い、動きを止めた。


 その城門の下には倒れたまま動かない騎士や這いつくばる騎士たちが残っていた。


 相手の騎士の被害概算は目測でおよそ10騎、歩兵はその数倍だろう。初戦の奇襲にしてはまずまずの成果だ。


「全員勝鬨を上げろ!」


 デニスの命令に、ゴブリンやオークは獣のような咆哮を上げる。


 この鳴動は士気を上げるだけではなく、騎兵突撃に見舞われた王国騎士団の軍勢に恐怖を抱かせたであろう。


 まずは第1戦、勝利である。

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