第18話

 デニスとカンタンは相も変わらず、旗を持ったまま王国騎士団の前に立ちはだかっていた。


 デニスたちは王国騎士団らと一定の距離を保ちつつ、西の森に入る。西の森では王国騎士団も横陣を保てないと考えたのか。今度は円陣を組んで進んでいた。


「上手い用兵術だ。指揮官としては一人前以上だな」


 もしデニス側に腕の立つ兵士がいるなら、この森を使った奇襲作戦も考えられた。おそらく、王国騎士団長のヨーゼもその可能性を含んで奇襲に強い円陣を組んだのだろう。


 実際のところは、奇襲作戦ができるほど魔族の村人たちは歴戦の勇士ではないのだ。


 デニスはなぜかほくそ笑みながら、ダンジョンの入口へと戻った。


 ダンジョンの前では誰もいない。それどころか近くの村人の野営地ももぬけの殻だった。


「うしっ。迎え撃つ準備をするぞ」


 デニスはカンタンにそう提案し、ダンジョンの奥へと潜り込んだ。


 遅れて王国騎士団の軍勢もダンジョンの前に到着して驚く。なにせダンジョンの前だというのに立派な村ができていたからだ。


 王国騎士団は事態を飲み込めず村やダンジョンに斥候を放つ。すると王国騎士団は2つの事実に気付いた。


 1つは村はどれだけ声をかけても返答がないという話。そしてダンジョンの内部の情報はもっと重要だった。


 斥候らが一本道を進んで行き、中層の大部屋にたどり着くと、そこには思いがけぬものがあったからだ。


 それは城だ。いや、城というよりも粗野な野城といった風貌がそこにはあった。


 まず目に付くのは土作りの壁だ。どこも石造りにできていないものの、中層の大部屋を完全に横断して行く手を遮っている。


 そして土壁の間には1つ、急造らしき大きな木造の扉が固く閉じられていた。


 王国騎士団の斥候はこれ以上進めぬと判断し、背を向けて去って行ったのだ。


「諦めたのですか?」


「いいや、今度は本隊が城を攻めてくる。ただ攻城の準備に何日か時間をかけるだろうな。ヨーゼも魔族の城を攻め落とした経験がある。油断はするな」


 デニスは土壁の上で悠然と立ち、遠くを眺めるのだった。


 それから4日、特に相手の斥候がくる気配もなく、デニスたちはダンジョンの備蓄を確認していた。


「投石用の石が300個、落下式の岩は100個、木と石の投げ槍100本、鉄の斧50本、鉄の剣30本か。食料の備蓄はどうなっている?」


「村人の分を含めても1ヶ月はゆうにあるでござるよ」


「なるほど……」


 デニスは各自の報告をメモし、ダンジョンの現状を確認していた。


「これだけあれば十分過ぎるですね。いつでもかかってこいです!」


 エメは報告上がった見積もりに満足し、上機嫌だった。


 ただデニスの顔色は全然違った。


「まっっったく足りん!」


「ええっ!?」


 デニスの発言に周りの者たちは慌てた。


「城攻めには相手の3倍以上の兵力が必要だと言われている。だがそれは逆にいえば、守る側は敵の3倍以上の物資がないと防げないというわけだ」


「となると相手は200人ほどですから……」


「同数より少し上の備蓄だから、今の物資の2倍以上は欲しいってわけだ」


 そのうえこの城壁は土壁だ。その気になれば梯なしで登れるし、崩れやすい。


 しかも木造の門は打ち込んだ丸太に蝶番(ちょうつがい)を付けた脆い仕様だ。もし本格的な攻城兵器を持ってこられたらひとたまりもない。


「どどどどうするです?」


「作戦はある。ただしリスクは承知の戦い方だ」


 デニスは心配そうな顔をするモンスターたちを一望して、笑いかけてやった。


「守って負けるなら。攻めの守りだ。それしかない」


 エメやゴロウ、モンスターたちはデニスのその言葉を最初は上手く飲み込めなかった。

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