第14話

「さてと」


 圧倒的な体格差を持ち、ランク持ちである巣の主の牛鬼を相手に、デニスは考えた。


 このまま槍の神器であるボーだけでこの怪物を退治できるのだろうか、と。


 デニスはカンタンと共闘する方法を考えるも、これを却下する。なぜなら戦いを初めて数日の相棒ではあまりにも頼りなかったからだ。


 なのでデニスは別案を採用する形となった。


「カンタン! ベガルタを投げ寄越せ」


「は、はい」


 カンタンはデニスの願いを聞き届け、武器にしていた神器の1つである剣のベガルタをデニスに投げ渡した。


 放物線を描いて向かってくるベガルタを、デニスは難無く受け止める。まるでそれが元々の手足かのように、ボーとベガルタはデニスの前で交差された。


「これで互角だ。牛頭野郎」


「武器1つ、何が変わる。人族」


 カンタンはベガルタの代わりに大猿の石斧を拾い、他の村人たちの輪形陣に加わった。


「どうでもいい。俺、お前潰す」


 戦いの先行を取ったのは牛鬼だ。大木にも似た巨大な鉄の金棒を高だかと振り上げると、一直線にデニスへと振り下ろした。


 だがそのアクションはあまりにもオーバーだ。回避するだけならデニスにとって十分な隙がある一撃だった。


 牛鬼の金棒はデニスに避けられて空を切り、その一撃は地面を砕く。その打撃の爆心地近くにいた他のモンスターたちは音と衝撃に驚き、武器を落とすほどであった。


「もらい!」


 デニスは地面をなぞるように大猿が落とした武器へ触れていく。牛鬼は躱される苛立ちを覚えながら金棒を横に払うが、これもまたデニスはあっさりと飛び越えてしまった。


「卑怯だぞ、人族。俺と戦え!」


「こいつは戦術と言うんだよ! 悔しかったらもっと考えな、牛頭」


 デニスは牛鬼と軽く言葉をやり取りすると、今度こそは本命の攻撃に移った。


「欲しければくれてやる。俺の城門砕きの投げやりを!」


 デニスは神器のボーを右肩の上に担ぐ。槍の穂先とは逆を掴むと、助走をつけて投げつけたのであった。


「ふんっ!」


 デニスの強肩から放たれた投槍はデニスの膂力(りょりょく)と遠隔操作の力を乗せ、加速しながら宙を飛来した。


 かつて傭兵として参加してきた数々の攻城戦で活躍し、攻城兵器を超える投槍の一撃。


 その行き先は牛鬼の右肩、投げられた槍は円状に肉を食い破り、遥か後方へと飛び去ってしまったのだ。


「ぐおおおおおおっ!」


 牛鬼は膝を崩し、天高く唸る。これほどの威力の攻撃は牛鬼にとって誤算だっただろう。


「降参するなら今のうちだぞ。牛頭」


「……馬鹿を言う。俺の本領、これからだ」


 牛鬼は左手で落ちた右腕を拾うと、なんと右肩の傷口へと押し付ける。すると牛鬼の右肩と右腕は目にも見える速度で再結合を始めたではないか。


「俺、復活(リバイバル)の牛鬼。この程度致命傷にならない」


「……まじかよ」


 デニスは牛鬼の再生力にたじろぐ。


 牛鬼のほうは誇るようにくっついた右肩を振りかざし、威圧するのであった。



「おっと」



 牛鬼は突如伏せる。それはデニスの投げた槍が元来た弾道と同じ軌跡を描いて戻ってきたからだ。


 牛鬼の頭の上を通り越し、デニスの腕に受け取られた槍を見て、牛鬼はほくそ笑んだ。


「俺、理解した。お前は武器を自在に操れる。すごいな」


「お褒めありがとうよ。お詫びと言ってはなんだが、いますぐ地獄の最高神に会わせてやるよ」


 それからデニスと牛鬼の戦いは長引いた。金棒の届かない遠隔から武器をけしかけるデニスに対して、牛鬼は脅威の再生力でそれを防ぐ。


 その攻防はまるでいたちごっこのようで、どちらも決定打に欠けていた。


「俺、いいこと思いついたぞ」


 牛鬼は急にデニスへの攻撃をやめ、目標を変える。


 新たな攻撃対象とは、角狼や大猿に囲まれたカンタンたち村人たちだった。


「なっ、この」


 牛鬼は近づいた途端、村人たちが防ぐ間もなく金棒を叩き下ろす。


 そのまま村人たちのひき肉が出来上がる寸前で、デニスが村人たちの間に割って入ったのだ。


「うおおおおおお!」


 デニスはボーだけではなく遠隔操作で大猿の石斧やこんぼうを束ね、牛鬼の渾身の一撃を受け止める。


 それでも牛鬼の攻撃の勢いを殺し切れず、大猿の装備がすべてを打ち砕かれ、デニスの握るボーを強かに打ち払ったのだ。


「ぐっ!?」


 デニスはあまりの勢いに村人たちの円陣へと投げ出され、その中のカンタンに受け止められた。


「デニスさん!」


「心配するな。ただの余波だ。それに……」


 デニスは横たわりながらもにやりと笑った。


「いい隙ができた」


 デニスは唯一防戦に参加させなかったベガルタを操り、見事牛鬼の右目をえぐり取ったのであった。

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