第13話
朝日が十分に降り注ぐ時刻になって、デニスは野営地の中央に村人たちを集めた。
「今日は建築班にダンジョンで採れた資源を北の村と交易してもらう。その荷運び要員だ。護衛は斥候班と連絡班と合同でやって欲しい」
「野営地の建築はどうするです?」
「建築の方は問題ない。ゴロウ、ダンジョン内のモンスターを使って野営陣地を建設してくれ。できるな?」
デニスの問いにゴロウはエメへと目配せをする。エメは無言で頷き、これを了承したようだ。
「承知したでござる」
「となるとダンジョンマスターの権限の一部委譲をしないとな。どうやってやるんだ?」
デニスの疑問に、エメは素早く答えを返した。
「やり方は簡単です。相手に触れて念じるだけでいいです」
「なるほど。じゃあ、ゴロウ。それにエメとカンタン。お前らに権限を一部委譲する」
エメとゴロウは納得したようだが、急に名前を呼ばれたカンタンはうろたえた。
「ぼ、僕もですか?」
「お前は村人の代表だからな。いざとなった時にモンスターを操る必要が出るかもしれない。これは保険のようなものさ」
デニスは保険という言葉を強調してカンタンを説き伏せた。
その後デニスはエメとゴロウ、カンタンに触れて正式にダンジョンマスターの権限を一部譲渡した。
「さて残りの防衛部隊だが、俺とカンタンと共に西の野良モンスターの巣を攻略しに行くぞ」
「……僕たちでできるでしょうか?」
「何、俺が付いている。死人は出させやしないよ」
デニスは自身満々に言うと、全員に号令を出した。
「さあ、今日一日しっかりと働け。おっと、プロデューサーの俺が指示するのはちょっと違うか」
デニスはそうおどけると、皆の失笑を買うのであった。
デニスとカンタンを含む防衛部隊の面々11人は西に向かって進軍していた。
昨日ケガをした部隊員の1人はエメの回復魔法によって全快し、今回の遠征にもついて来ていた。
道すがらは森や草原を何度か越え、デニスたちは一際見渡しの良い丘陵(きゅうりょう)に辿り着いた。
「斥候班が言うにはこの辺が魔獣たちの巣だそうです」
「よく調べたもんだ。ここまで戦わずに追えるなんて大した奴らだな」
「斥候班は狩りの経験者で構成しましたから」
「追跡は得意中の得意か。いい人選じゃないか」
デニスがカンタンを褒めていると、横側の森や丘陵の奥から動きがあった。
「来るぞ! 輪形陣をとれ」
デニスの合図にただたどしくも村人の防衛部隊は外側を向いて円陣を組む。
対する敵は角狼やオーク並みにガタイのいい大猿たちだ。陣形はとらず、各々(おのおの)が思いのままに近づいてくる。
「懐に入らせないことだけを考えろ。討ち取るのは俺とカンタンでどうにかする。全員命を取られるなよ!」
通常の、鍛え上げられた兵士でも部隊の約3割が死傷すれば撤退する可能性があると言われている。ならば大して軍事訓練を行っていない村人では1人でも倒れれば逃げ出すのは必至だ。
この戦いはデニスとカンタンがどれだけ村人を守れるかにかかっている。責任は重大だ。
「来い! 魔獣ごとき俺1人で十分だ!」
まずはデニスが先陣を切って敵陣に走り込んだ。
デニスは初めに最も近い大猿を狙った。
デニスは槍であり神器でもあるボーの穂先を戦端にし、それを駆け寄った大猿の胸に突き立てる。
大猿とて無抵抗ではない。持っていた石斧でデニスに反撃しようとするも、俄然(がぜん)リーチが違いすぎて振るった武器は虚しく空を裂いた。
「まだまだ!」
デニスは大猿の背中まで貫いた槍を振り回し、その遺体を魔獣の間に投げ飛ばす。
魔獣は味方の死体におののき、その間隙をついてデニスは更に敵陣へと潜り込んだ。
デニスは槍を横に薙ぎ払ったり目にもとまらぬ連撃で牽制と攻撃を両立させながらも、カンタンの様子を見た。
カンタンは渡した神器である剣のベガルタを敵に振りかざし。懐は急造の木の盾を構え、中々の立ち振る舞いで敵と向き合っていた。
ちょうどカンタンが盾で大猿の石斧を受け止めつつ反撃しているのを横目に、デニスは5体目になる角狼の首元を刺し殺していた。
「こいつらも集団戦がなってないな」
もしデニスなら機動力のある角狼と攻撃力のある大猿を組み合わせた戦略を練る。例えば角狼と大猿を1体ずつ組ませ、角狼に手足の部位を狙わせて足止めさせている間に大猿で止めを刺す。それくらいなら知性の少ない魔獣でも教練できると考えていた。
それなのに魔獣たちはそれぞれまばらに白兵戦を仕掛け、戦術のせの字もない。
「お前たちなんぞ束に掛かっても一生勝てんぞ! ボスを出せ!」
魔獣たちはデニスの怒声に驚いたようで、足を止める。
そうして戦いのさなかに一瞬の空白ができた時、丘陵の更に奥から雄たけびが聞こえてきた。
「俺、呼ぶの。お前か!」
足音で地面を揺らし、どでかい金属のこん棒を持って丘を越えてきたのは牛の頭を持つモンスターだった。
牛の頭を持つそれは、首から下は人型だ。全身には薄茶色の毛が生え、脚は蹄(ひづめ)と獣の後ろ脚のおかげか背が高い。
そして何よりも、その図体はあまりにも巨大だった。
「で、でかい」
大きさはトロールが見上げるほどの大きさで、デニスと比べれば7倍か8倍の大きさだろうか。
そのあまりの大きさに、魔獣相手に抵抗を続ける村人たちにも動揺が走った。
「おっと、神器1つでこいつは手に余るかもな」
デニスは地鳴らししながら目前へと迫る牛鬼を前に、冷や汗を垂らすのであった。
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