第10話
デニスはまずダンジョンの現在状況を確認すべく、ダンジョンマスターの力を使って中層の大部屋に全てのモンスターを集めた。
モンスターの規模は以下のとおりである。
魔獣の内訳:魔石ペンギン5体。角狼11体。ブタムシ22体。スライム16体。
魔物の内訳:ゴブリン35体。オーク8体。トロール2体。
それがダンジョン内の戦力全てであった。
「基本的に強いモンスターほど少ないんだな」
「表の世界の動物と同じく弱肉強食の三角形と同じですよ。人間は増えすぎですけど、他の生物たちのサイクルは同じなのです」
「ってことは弱い奴は食べられるのか?」
「主に魔獣が食されているです。ゴブリンもたまに食べられてますけど、基本的にはそうです」
「俺たちも魔獣は食えるからな」
デニスがそう言葉にして魔獣を見る。
魔石ペンギンは懐に担いだ原石のような宝石を抱えて子供のように振るえ、角狼はやや唸り声をあげている。
ブタムシと言われるハートのような鼻の付いた体格と肉付きの良いイモムシは、状況を呑み込めずにうねうねと動いているだけだった。
「ゴブリンは手先が器用である程度知性があるから食事にするのは禁止にしよう。他に食事になる穀物や野菜はないのか?」
「ゴブリンが主食にしているムギノコとコケキャベツ、それにトマメがありますね」
ムギノコとはパンのような生地をしているキノコ、コケキャベツはキャベツを地面に敷いたようなコケだ。どちらもダンジョンでしか取れない一方、トマメと呼ばれる赤く柔らかい果肉と食べられる種を持つ野菜は地上でも食されている一般的な野菜だ。
「ゴブリンが農耕か……。噂で聞いていたが、意外だな」
「ゴブリンは基本地上への略奪に使われるですからね。ブタムシも育てているから一種の遊牧民族みたいなものです。ただ定住しているという点で大きな違いがありますですけど」
エメがそう説明する間に、デニスはゴブリンたちをよく吟味する。
大きさはデニスの腰の高さほどで小さい。緑色の肌を持ち、ほとんど体毛がない。ある程度衣服を身に着け、秘境の原住民のような格好だ。
頭には角がある個体が多く、雄(オス)が多い。雌(メス)はぽっちゃりとしており、雄よりも大きくて目立つ存在だった。
「雌は母ちゃん的な存在なんだな」
「繁殖は一妻多夫らしいです。たまに人間の女性を連れてきて繁殖を――」
「ああ、それは何となく察した。いいから次に行こう」
デニスはエメが猥談(わいだん)のように喜々として喋ろうとするのを止め、オークやトロールに目を移した。
オークはデニスが見上げるほど大きく、ゴブリンと違って肌色は赤や緑、黄色と多彩だ。角は大きく、数が多い個体が強いとされているらしい。腕や脚の太さも体格に似あった太さをしており、普通の人間よりも強そうだ。
「オークは基本的にゴブリンを強請(ゆす)ったり襲ったりして暮らしているです。魔物の多くは雑食で、穀物も野菜も食べますです。そしてゴブリンが攫った女性を――」
「言わんでいい。トロールはどうなんだ?」
エメがあんなことやこんなことを言い出す前に、トロールの説明を聞いた。
「トロールは天然な馬鹿でノロマで力持ちです。今言った言葉も褒められたと思って笑っていますですからね」
トロールはゴブリンのような頭をしていて、デニスの5倍ほどの大きさだ。手足は太いというよりも長く、色は腐った苔のような緑色、というより本当に苔が生えている。
今は柔和な笑顔をしているが、先ほどデニスと戦った時はオークよりも恐ろしい怒りの顔をしていたのを覚えている。
トロールは見た目では胸以外の違いはなく、腰巻と胸部分をぼろきれで最低限隠しているだけだった。
「頭のいい役立たずよりはだいぶマシだな。トロールには活躍してもらおう。これで以上か?」
デニスが聞くと、エメは頷いた。
「さて、それじゃあ最初の仕事は――」
デニスはモンスターの大軍勢を前にして命令を下した。
「ダンジョンを改築する! 全員一層の働きを期待しているぞ」
「改築ですか?」
デニス以外の皆はその言葉を不思議そうに首を傾(かし)げるのであった。
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