第2話 がんばれ、能見!

 元タイガースの能見投手は、ルーキーの頃からすごいピッチャーだった。今も勿論、すごいピッチャーである。


 能見投手がルーキーの年、5月に入るとプロ野球のお決まり事なのか、能見投手も例に漏れずお疲れ気味だった。

 当時の解説者の言葉をお借りすると「開幕から飛ばしすぎたな。ペース配分ができてない」とのことだった。

 確かに、画面に映る能見投手の顔には疲れと悲壮感が滲み出ていた。それもそのはず、あとアウト1つなのにボール先行になり、満塁のランナーを背負っていたのだから。。。絵に描いたような、天国と地獄の分かれ目である。若干、地獄に堕ちかかっている空気すら感じ取れた。

 その時、甲子園球場は誰かのため息が聞こえそうなほど、静まり返っていた。

 テレビの前の私は完全に諦めていた。

「打たれて2軍落ちか。。。当分、能見の登板見られへんなぁ。残念」

 しかし、次の瞬間、私は随分とつまらない大人になってしまったものだと思い知らされた。

 テレビから、小さな子供の叫ぶ声が聞こえた。

「頑張れ! 能見ー!!」

 画面の能見投手の表情が変わった。まるで我に返ったかのようだった。

 さらに反対側のスタンドからも小さな子供の声。

「頑張れ! 能見ー!!」

 能見投手、先ほどまでの悲壮感漂う表情はどこへやら。調子のいい時のキリリとした無表情に戻ったかと思うや否や、いつもの見事なピッチングで遂にバッターを追い詰めた。

そして、審判の声が轟いた。

「ストラーイク! バッターアウート!!」

3アウト。何事も無かったかのように、能見投手はいつもの涼しい顔でベンチに戻っていった。


 この日、2人の子供たちから「諦めない心」を、能見投手と私は改めて思い出させてもらったのかもしれない。


後日、この感動を阪神ファンの女上司と共有しようと、熱く語ったのだが。。。。

「子供って、空気読まれへんなー」

え? ええー! ま、まさかその回答。。。 

いやいや、人それぞれである。そう、我が国は自由を愛する民主主義国家。


能見投手がオリックスに移籍したのは、とても残念だ。

オリックスでの活躍を心から祈る!

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ホッとした 黒猫 @kuroneko021128

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