第2話 交わりし道

かつて、この世界には伝説と言われたパーティがいた。

その名は『クロスウェイズ』

ゲーム開始以来無敗。常に最強であり続けた。

しかし、その実態はリーダー『AKARI★』を中心とする、落ちこぼれたちが集ってできたパーティである。

何でもできるが何にもできない器用貧乏なリーダー。

すぐに前線に出ようとするヒーラー。

無口すぎて連携の取れない剣士。

臆病で引きこもりのスナイパー。

戦闘中に実験を始めるマッドサイエンティストもどきの魔法使い。

その一癖も二癖もあるチームはこの世界で最強であり続けただけでなく、そんな彼らの戦いは常に紙一重のものでもあった。見ていてどちらが勝ってもおかしくないそんな戦いばかりで、とてもスマートと呼ぶには程遠いものであっただろう。

……だからこそ、あの日の欠けていた僕はそこに惹かれたのだと思う。


うなされるように目が覚める。

そうか、俺はモンスターにやられて……。

目が覚めたのは、ベットの上ではなく協会だった。

「どうやら、お目覚めのようですね。あなた様にはあのクエストはまだ力が足りないかと思われます。さらなる訓練か新たな仲間を……」

そう、NPCが俺に語り掛ける。

「もうレベルはマックスだっての……」

そう、呟く。

俺超TUEEEEEEみたいなセリフだけどこのゲームはカンスト勢が大半な上に固定されたボイスに返答しても意味なんかないのだけれど。

まぁ、さすがに五十人以上が推奨のダンジョンは初心者の街と言えども無茶だったかと反省する。

「いくか……」

特に行く場所なんかない。ただこの世界を探検するだけ。このゲームを惰性で続けているわけでないが一度前のチームを抜けた切り何もすることが無くなっているだけだ。


そんなこんなで広場までやってきた。

ここ広場は初めての街のど真ん中にあるため、初心者がもっとも集いやすいスポットである。それではなぜ俺がここに来たかというと……

「うん。暇だし初心者に手ほどきでもして気持ち良くなるか」

単にちやほやされたいだけである。

まぁ、おたがいwin winだし、問題ないねっ。

あとは、共に戦ってくれる仲間の募集の意味もあるのだが……。まぁ、それに関しては見つかったらラッキー程度に考えとくとして……

さてと、困ってそうな人は……

周りを見渡すと

・噴水近くのベンチに腰掛けて一生懸命に呪文の暗記をしている帽子を深くかぶった銀髪ツインテエルフの女

・ずっと周囲をきょろきょろと見渡して興奮しているいかにも初心者そうなおどおどしているツンツンヘアーの戦士の男

の二人がいた。

うん。戦士の方は一人で頑張ってくれたまえ。

……と言いたいところだが、ここで一つ問題が起こる。

『俺は妹たち以外の女性とうまく話せない』のだ。

これはいわゆるナンパに似たものでないのか。この広場も何となくハチ公前に似てるしナンパっぽいぞ。という考えに至る。

「やばい、意識したら無理だ。俺みたいな童貞陰キャこじらせマンには無理だ」

今すぐにでも戦士の方に標的を切り替え……

「あんのぉ、裏切り者がぁ!」

周りに美女を三人ほど連れた優男が先に彼に手ほどきしようと提案し、それについていっていた。

俺というものがいながら、君は……。

でもいいのっ、あなたが幸せならあたいっ!

仕方ない、自尊心を満たすのはあそこの女にするとしよう!

そして、行動に移してやっと後悔する。

『女性に近づき、声をかける』

これは、陰キャがやるか陽キャがやるかで不審者かどうか変わってくるのだ。

しかし、時すでに遅し。すでに帽子を深くかぶったエルフの女に声をかけてしまっていた。

「あっ、あっ。あのぅ……」

あぁ、死にたい。通報されて垢banされない?これ。

泳ぎまくりの目、忙しなく動き回る手、頭は常に地面を向いており、会話も続かない。

「も、もしよかったらいいんですけれど、このゲームく、詳しいんでお、教えまひょうか」

『自尊心をあの女で満たそう』なんて、クソッたれたこと考えていたクソイキリ陰キャはどこだ!ぶっ殺してやる!

すると、エルフの女は訝し気にこちらを見ると

「あの、俺。えっと、女性にしているだけで男なんで……」

そう、俯きがちに言った。

え?

理解するのにある程度の時間を要した。が、数刻の後に理解する。

なるほど、こいつは男なのに女のキャラでロールプレイしている、俗にいうネカマなのか。

このゲームでは容姿こそはランダムで割り振られるこそ、髪型、髪色、性別や種族すらも自由自在に選ぶことができる。別段、女性キャラでこのゲームを遊んでいる男がいても不思議ではない。むしろ、そういう人口はかなり多い位だ。

「なるほどね!なら、女子じゃないんだね!」

そう言うと

「だ、だから別にほっといても……」

「大丈夫!俺、そういうのあんま気にしないし。たくさんいるでしょ、そういう人も!俺も女性アバター使いたいって気持ちは分かるし!」

「え、えっと……」

別にこの人が女性でない以上、緊張する理由もない。

「初心者でしょ、装備的に。もしよかったら少しはボス討伐の支援もするしさ!

一緒に冒険来てくれない?」

「あ、あの……。私、いや、俺男なんですよ……」

「だから、さっきも言ったじゃん!そんなの気にしないって!」

そうだ、僕はそういうのは気にしないのだ!

すると、少女(の格好をした男性(年齢不詳))

「なら……お願いします」

と僕の目をしっかりと見つめて言った。

彼女(男(年齢不明))の顔はこれまで会ったどんなアバターよりも整っていた。特に彼女(男)の翡翠色の片目は吸い込まれそうな魅力を放っていた。

「それじゃ、ここら辺案内するからついてきて!」

そう言うと僕と彼女(以下略)の冒険が始まった。


彼女がボソッと呟いた「この人は、そういう趣味の人みたいだし安心かな」という言葉は広場の喧騒とビュウと吹いた風の音にかき消されたのだった。



















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僕らのための行進曲! 寺条 好 @kyuusyuudanji

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