僕らのための行進曲!

寺条 好

第1話 開始

「おっし、これでいけるかなっと」

 そう言うと、浮遊するカメラに向かって

「どうもー、朝霧でーす!!今日からニューチューバー始めましたー。よろしくねー。おっ、初見さんいらっしゃーい。つっても、この放送自体が初めてだから全員初見なんだけどねー」

カメラに向かて手を振る。

「さてと、今日は何しよーか。って、考えてきてるからそれするだけなんだけど……」

カメラに背を向けると

「きょーは、グラスドラゴンの討伐でもしよーかなって、思ってまーす」

 そう言って、目の前でめちゃくちゃなオーラを放つ奴に剣を構える。

「ま、勝てるとは到底思ってないんだけどねー」

グオオオというバカでかい咆哮と共にバトルが始まった。


「ぷはー!負けた負けた(笑)こりゃー、何度やっても勝てませんは。あはは」

そう言うとコメントを読む。

「え?あとちょっと回復早ければ勝てたって?えーまじー、ワンモアチャレンジ?無理無理、もうそんな根気残ってないよー」

またコメントを読む

「ネタ職つかうな?えー、いいじゃん、結構面白いよーこのジョブ。まぁ、縛りプレイって感じだねー。それとー、俺、MKさんに憧れてこのジョブ始めたからかなー」

コメント欄に、『あれは無理』や『あれは化け物』というコメントがポツポツと表示される。

「それじゃ―、名残惜しいですがここらで第一回グラドラ討伐チャレンジ企画終わりまーす。それじゃー、みんなお疲れー」

コメント欄がある程度お疲れコメで埋まるのを確認し配信を切った。


ベットの上で目が覚める。装着していたヘッドギアを外しのっそりと起き上がる。

ついさっきまで草原の上だっただけに、目の前に広がる汚部屋に驚く。このダイブ式ゲームにはある程度慣れてきたとはいえ、これだけは未だに慣れない。

パソコンを開き、先ほどまで遊んでいたゲームの再生数を確認する。

「247回……」

 初回配信にしては良い方なのか?正直、何とも言えない。

「おっ、プラスさんの動画もう上がってる!早く見ないt……」

「かなたー、ごはんー」

 かえでだ……。朝ご飯を作り終えたのだろう、一階から食欲をそそられるいい匂いがする。

「寝てるのー」

うん。 無視を決め込もう。それより今はこの動画だ。

「ご飯冷めるよー。早くー」

少々心が痛むがここはこの動画の方が先決だろう。なぜならば、動画のタイトルが『姫プだと思ったら、姫が一番強かったら』だからだ!彼女の姫プしてみたシリーズは基本外れのない傑作ぞろいで、毎回、再生数も僕なんかとは桁違いの一万回再生以上もされている。なにより、声が可愛い。なんだこの声。天使か。天使だな。天使に違いないっ!

「おーい!」

むぅ、まだ呼ぶか。

「ねぇ、さくら。あいつ起こして来てくんない」

「えぇ~、めんどくさい~。お兄ちゃんなかなか起きないし……」

「おやつでパンケーキ作ったげるからさぁ~。そこを何とか……」

「もう、仕方ないなぁ……」

そんな会話が聞こえると、妹がどたばたと階段を駆け上ってくる。

僕は急いでパソコンを閉じ、布団に包まる。

ガチャリ、という音と共に元気よく妹が入ってくる。

「お兄ちゃーん!おきてー!」

その爆音とともに、僕の包まっていたはずの布団は一瞬で引っぺがされる。

ううう。うるさい……。だが、僕は負けないっ!

「まだ起きないの……。なら!」

そう言い、思いっきりカーテンを全開にする。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

そんな悲鳴と共に寝たふり作戦は失敗する。引きこもりに太陽の光は効果抜群だ!

「もう!早く起きないと、めっ!なんだよっ!」

目を見開くとやはり妹がいた。正直、うちの妹さくらは見ため的には地味な子なため、唯一の特徴であるつむじあたりから跳ねたくせ毛?がこれでもかってくらい朝っぱらから感情を主張してくる。まぁ、くせ毛というには、驚くほど感情を表現していてうれしいときはぶんぶんと左右に振れたり、怒っているときはピンとまっすぐに立ったりする。今朝だってもう、ビンビンに立っている。いや、下ネタじゃなくてだな……。とにかく、自分としては、あれは犬のしっぽに近しい何かだと思っているわけで……。

「早く、ご飯食べるよ!ご飯はみんないっしょ!この家のルール!」

可愛い妹の頼みとあらば仕方ない。早く食べてしまうとしよう。

階段を降り、リビングへ向かうと、キッチンにはかえでがいた。

「お姉ちゃーん!起こしたよー!」

そう元気に妹が告げる。

「おぉ、ありがと!さくらは偉いなぁ!どこかの誰かさんとは違ってね……」

そう言うといろははこちらをキッと睨みつける。

「おぉ、怖い怖い」

「誰が好き好んでクソゴミ雑魚ニートの飯を作ってやっているんだと思ってんだ。黙ってとっとと食え。」

朝っぱらから聞くにはパンチの聞いた言葉だ。しかし大人な僕は

「……思春期特有のアレね。はいはい……(ボソッ」

そうほんの少し煽り返して食パンを一口いただk……

グーが飛んできた。こいつぁ、やべぇ。

「黙って食え」

姉。暴力の化身。考えることが苦手。すぐに手が出る。口喧嘩は苦手。空手二段。曲がったことが嫌い。猪突猛進。勇猛果敢。体育二重丸。テストはバツ。一触即発。大爆発。年中短髪。お胸は干ばつ。

「大丈夫⁉」

そう言って向かいに座っていたさくらがトテトテと隣にきて俺を心配する。しっぽ(別名くせ毛)も僕を心配しているのかしょんぼりしている。

「あぁ、大丈夫だ。」

にっこり笑ってそう言うと気を取り直し食事をする。

食卓に着くとさくらが

「なんでお姉ちゃんはそんなにすぐ手が出るの!」

と、プリプリ怒っていた。対する姉はというと

「いや、こいつのクソ根性も叩けば治る」という意味不明な答弁をしている。昔のテレビじゃあるまいし……。


なんだかんだで食事を終えた朝霧家。姉と妹は学校へ向かう支度をしている。

当の自分は寝巻で彼女たちが出かけてしまうのをリビングでぼーっと待っていた。

「それじゃ、行ってきまーす!」

「行ってくる」

さくらは元気よく、かえでは不愛想にそう言った。

ガチャリ。とドアが閉まる。


さて、と。妹たちも行ったしゲームでもするか……。

寝間着姿のまま部屋に戻り、ヘッドギアを取り出す。

「配信は……いいか」

久しぶりに配信抜きに自由に遊んでみたくなった。

少し前の自分の自由な気持ちを取り戻すためだ。

決してあの誓いを忘れたわけではない。

「さぁてと。行きますか」

ヘッドギアをかぶり電源を入れる。

数刻後目の前に広がるのは繫栄した市場。

一人静かな部屋の中は喧騒に包まれた。

「さてと、なにしようか」

ワクワクを抑えきれず、つい頬が緩んでしまう。

ショッピングもいい、釣りや伐採して資源を集めるのもいい、街の人と会話してみるのも……これは難易度高いか。

まぁ、けれどここに来た時点で初めにすることは……

「よし!とりあえず一狩りいきますか!」
















 










 


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