第7話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(7)
東堂の運転する車は、高速道路を爆走し、泊まっていたホテルから……というか、京都からもどんどん離れて行く。
いつの間にかスマホも没収されて、助けを求めることも、今自分がどこにいるかもわからず、完全に拉致監禁状態だ。
その上、隣に座りながら睡魔がやってきたようで眠り始めた伊織の頭が倒れてきて、美桜の肩にもたれかかる。
暴力や乱暴をされているわけではないが、男性恐怖症の美桜にはそれが苦痛で仕方がない。
そして、重い。
最初はどうにか逃げ出そうとしていたが、もう抵抗することも、無理に言葉を発することも諦めた。
途中でトンネルの中を通った時から、白い服の女の霊が窓にしがみついているが、もう何も言いたくなかった。
(どこ……?)
すっかり暗くなり、京都で拉致された美桜が連れて行かれたのは、月島家の大豪邸だった。
長い時間車で揺られ、ようやく終わったと思ったら、今度はメイドが3人やってきて、美桜はわけもわからないまま大豪邸の大きすぎる風呂に入れられ、バスローブのまま無駄に広い部屋で名前のよくわからない高級ディナーを振舞われた。
それはとても美味しかったのだが、食べ終わったら今度はまたメイドたちにバスローブからシルクのパジャマに着替えさせられ、今、ふかふかのベッドの上に座らされている。
そして、無駄に背の高い犯人たちは部屋に入るなり、美桜を見下ろした。
「しかし驚きました……」
「何が?」
「まさか坊ちゃんがこのような、タイプの女性がお好みだったとは……月島家にお仕えするようになってからもう10年経ちますが、全く知りませんでしたよ」
「は!? 何言ってんだ!! こんなちっこいヤツが俺のタイプなわけないだろ!?」
(なに? この状況……)
もう訳が分からす放心状態で、失礼な会話を聞かされながら、美桜はもう今のこの状況が理解できず、思考が停止し始めている。
色々なことが起こりすぎて、美桜の頭の中は
「よく見ろ! 背も低いし、小学生みたいじゃねーか!! それに胸も小さ……————いや、意外とあるか?」
大きなベットの端に、ちょこんと座っている美桜の体をまじまじと伊織は見つめ、首をかしげる。
美桜はいつもサイズの合わない服を着ているせいでわかりにくいが、小柄でも立派なレディなのだ。
「まぁいい。そこはどうでもいい。それより、調査結果に間違いはないのか?」
伊織は一つ咳払いをすると、東堂に美桜が何者か調べさせた結果をもう一度確認する。
「ええ、間違いありません。吉沢美桜、月島学園高等部2年A組。身長146㎝。体重————」
「そこはどうでもいい、その次だ」
東堂は結果が書かれた紙を1枚めくり、美桜の生い立ちについて書かれた2枚目を読み上げる。
「旧姓・
神の子……その言葉を聞いた途端、ほとんど無反応だった美桜の肩がびくりと動く。
伊織はそれを見逃さなかった。
「やっぱり、間違いないようだな……」
名字を母親の旧姓に変更し、誰にも言わずに隠していた過去、人生の汚点。
そして、男性恐怖症になった原因である神の子として過ごしていた、あの地獄のような日々を思い出し、震えながら頭を落としたように俯く美桜。
伊織はそんな美桜の顎をクイッと上にあげ、無理やり視線を合わせる。
「俺はお前の話を信じる。だから、俺にかけられた呪いを解け」
あのキラッキラの笑顔とはまるで違う、真剣な眼差しが、見開いた美桜の瞳を射抜く。
普通ならこんなイケメンに、こんなに近くで見つめられたらときめくだろう。
二人の様子を見ていた東堂も、これで美桜は落ちたと思った。
しかし、美桜は、男性恐怖症だ。
嫌悪感と思い出したくない過去の記憶がフラッシュバックして、その視線に過度のストレスを感じた。
先ほど食べたディナーが、食道を通って戻ってくる。
「うぷ……っ」
「!!!!?」
イケメン高校生の顔面に、大惨事が起きる。
調査結果には、男性恐怖症の記載があったのに、完全に見落としていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます