第5話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(5)
「うっぷ……気持ち悪い……」
せっかくの修学旅行なのに、美桜は吐きそうになっていた。
「美桜ちゃん大丈夫? 少し休んだら?」
「うん、そうする……ごめんね、さっちん」
「朝からあんなにいっぱいカレー食べるからだよ……! 何かスッキリする飲み物でも買ってきてあげるね。ここで待ってて」
皆が土産屋で買い物をしている間、美桜は一人ベンチに座って休むことにした。
気持ちが悪いのは、確かに沙知の言う通り、朝から食べすぎたカレーのせいもあるのだが、実はそれだけではない。
(やっぱり京都って……お侍さんの霊が多いなぁ)
人酔いならぬ、霊酔いしたのだ。
ただでさえ観光客が多い上に、そこら中に幽霊がいた。
美桜は呪いだけではなく、幽霊も見えるのだ。
あちこちに侍の幽霊や、落ち武者がうろうろしている。
自分の首を持ったまま歩く武将や、頭に刀が刺さっている侍もいるし、着物姿の芸者らしき女の霊には片腕がない。
最近亡くなったであろう霊もいて、セーラー服の少女には両足がない。
(どこにでも霊はいるけど、やっぱり歴史が違いすぎるのよね……)
美桜はこんなに見えているが、霊の方は、美桜が自分たちの姿が見えていることには気がついていない。
大抵の霊はそうだ。
だからこそ、普通に美桜に向かって歩いてきて、美桜の体をすり抜けようとぶつかる。
美桜の体に触れたら、浄化させられて消えてしまうことがわかっていないのだ。
(それにしても、あんなに呪われている人は久しぶりに見たわ……)
そんな特殊な体質である美桜は、霊に対しては耐性があり怖いとは思わないのだが、呪いは別だ。
呪いは、呪いをかけている原因を止めなければ、美桜の力で一時的には浄化されても、また必ずターゲットを襲ってくる。
そんな呪いをかけてくる人間の方が、美桜にとっては怖い存在だった。
「一体どんな恨みを買ったら、あんなに呪われるのかな?」
隣に座っている侍の霊と目を合わさないようにしながら、美桜はぼそりと呟く。
すると、後ろから急に声がして————
「俺も知りたいな。呪いって、どういうこと?」
びくりと肩を震わせて振り返ると、美桜が座っているベンチの背もたれに両肘をつきながら、ニコニコとキラッキラの笑顔のイケメンの顔が目の前にあった。
「……!!」
(つつつつつつつ月島伊織いいいいいいい!!!!?)
美桜は驚きすぎて声が出なかった。
それでもベンチから逃げようと立ち上がる。
「待ってよ、吉沢さん。逃げないで、教えてよ」
伊織にぐいっと手を引っ張られ、ベンチに戻されてしまう。
「わわわ私に触らないで!!」
「ごめんごめん、もう触らないから、とりあえず落ち着いて? ね?」
ものすごい警戒をされて、流石に伊織も少しショックを受けながら手を放した。
そして、いつも女子たちを魅了するキラッキラの笑顔のまま美桜の隣にストンと座った。
「あ……」
(そこ、お侍さんの席!!)
何も見えていない伊織は、隣に座っている侍の霊の上からベンチに座ったせいで、伊織のと侍の霊が重なっている。
あきらかに侍の方が伊織より背が低いのだが、脚が長い伊織と侍の座高はまったく同じくらいだった。
キラッキラの笑顔のイケメンと、侍さんの悲しそうな顔がダブって見えて、美桜は吹き出しそうになるのをなんとか我慢して、伊織から顔を背ける。
「吉沢さん、教えてくれないかな? 昨日言ってた、呪いの話————」
「…………」
(なんで、私がそんなこと教えなきゃいけないのよ。さっさっとどっか行ってよ……)
こちらを見ず、口を開かない美桜に内心イラつきながら、伊織は笑顔を崩さず、美桜にできるだけ優しく語りかける。
「————教えてくれるまで、俺ずーっと話しかけるけど、それでもいい?」
(それは嫌だ……! でも……本当のことこんなに何も見えてない感じてないヤツに話したところで、どうせ信じてはもらえないわ——)
美桜は昔、見えたものをそのまま伝えたことがきっかけで、失敗したことがある。
そのせいで嫌われて、怒られて、殴られて……
だが、この場合、素直に話した方が、これ以上関わってこなくなるのではないかという考えが頭をよぎる。
(頭のおかしい女だと、思わせておいた方が、楽なのかもしれない————)
美桜は意を決して、どもりながらも、ゆっくりと口を開いた。
「そその……あの、呪いっていうのは————」
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